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「結局、収穫はなかったってわけ?」

 シロウと戻るなり凛が発したのがこんな言葉だった。
 シロウはすでに夕食の準備に取り掛かっていたために、廊下には私と凛しかいない。
 凛の表情から、彼女の方も空振りに終わってしまったことは読み取れた。だが、彼女の瞳に宿っているのは無念さなどのそれではなく不思議そうな色であった。それを不思議に思ってしまったことに凛も気がついたのだろう。

「いや、セイバーがあんまり焦っているようには見えないから」

 凛の言葉で納得する。確かに、アーチャーを探しに行った時に比べて、私の精神はどちらかと言えば落ち着いているだろう。本来ならば今頃私は落ち込んでいるはずだ。半日もかけてアーチャーを探しに行ったというのに、収穫がなかったのだから。
 自身が焦りを覚えていない理由はおそらく、紅い騎士が口にした言葉にある。
 だが、凛にあの男との会話を話すつもりはなかった。
 話せば、信じる理由を訊かれるかもしれない。そうなってしまえば、私はその理由を話さなければならない。
 信じる理由を。かつての戦いのことを。
 それは、どうしてもこの胸にしまっておきたいものだった。
 どうしようもなく、不実であるとしても。

「まあ、焦っても仕方がないことですから」

 だから、現実的な観点でのみの言葉を口にする。実際、焦ってもよい結果が得られるわけがないのだ。

「まあ、そうなのかもしれないけど」

 やや拍子抜けしたような凛だったが、それがみるみるうちに笑顔に変わっていく。それは、決して好ましい類のそれではなく、かつて何度と見た魔術師の笑顔にひどく酷似したものだった。
 確かにその笑顔に対して、私の直感は警鐘を鳴らしはしたが、それはまったく意味のないことだった。

「これなら、今訊いても差し支えないわよね」

 一歩こちらに近づきながら凛が不穏な言葉を口にする。
 つまり、私の直感は間に合わなかったのである。
 何を訊かれるのかわからないのに、差支えがないかどうかなんてわかりはしない。しかし、そんなことを言ってしまえば私はどんな訊ねごとも断ることになってしまう。

「なんでしょう。凛」

 覚悟を決めた私は、できるだけ気持ちを強く持って凛の視線を受け止めた。だが、凛は私の態度すら楽しい、そんな顔をして――。

「あの服は、もう着ないのかしら」

 そんなことを言った。

「は――?」

 だが、私には凛の言葉の意味が判らない。故に、真面目な顔を作っていたはずなのに、何となく間の抜けた声を出してしまった。

「む、当てが外れたか」

「はあ」

 意味がわからぬと、私は声だけでなく視線でも凛に主張するのだが、凛は「本当に気づいていないの?」と視線で返してくるだけだ。
 だって……本当にわからない。
 私の反応が本物であると信じることが出来たのか、凛の瞳から疑いの色が消える。
 だが、代わりに呆れたような色が瞳に滲み出していた。

「なんですか。凛。何か私に問題があるとでも?」

「いや、まあ。問題があると言えばあるんだけど。ふむ……」

 考え込む凛に対して、私は眉間の皺を深くする。

「言っておいた方がいいでしょ。セイバーもわけがわからないままじゃ気持ち悪いでしょうし」

 それはそうだ。いったい凛が何を意図して先のような言葉を放ったのか。気にならないと言えば嘘になるのだから。
 ただ、それはあまり私にとって良い話でないことだけはわかっていたが……。
 どんな私にとって良くないことであっても、早めに知って、改善することが最善であろう。

「つまり、ね。セイバー。貴女がキャスターに着せ……」

「待った! 待ってください! 凛!」

 凛の口からある言葉が漏れた瞬間、私は雷速の速さで凛の口をふさいでいた。

「あれ、とは……まさ、か?」

「その様子だと思い出したみたいだけど。ははあ、なるほど。あの時はアーチャーが逃げ出して動揺してたってわけか。ははあ。なるほどねえ」

「ちょっ! 凛! 貴女は、まさか!?」

 最悪の光景が頭に浮かび、慌てて凛に詰め寄る。それはきっと、恥ずかしい!
 何故だが、シロウに見られたこと以上に。

「で、もう一度訊くけど。着ないの? あれ」

「き、着るわけがないじゃないですか!」

「ふ〜ん。でも、まだアーチャーには見せてないじゃない。いいの?」

 その言葉を聞いた瞬間、私は顔が真っ赤になるのを感じた。
 それがシロウにすでに見られてしまったという結果があるゆえに思うのか。それとも、アーチャーが相手だから、ということなのか。理由は定かではない。
 ただ、わかりきっていることが一つ。
 それは、顔から火が出るほどに恥ずかしいことだ。
 絶対。絶対にアーチャーに対してはあの格好を見せるわけにはいかない。

「それは残念ね」

 ちっとも残念そうに見えぬ凛に対して、私は渋面を隠せない。

「はは、そんなに怒らないでよ。セイバー。もうこの話はしないから」

 よっぽど私は怖い顔をしていたのか。凛が微かに腰を引いたことに気がついた私はこれ幸いとばかりに凛に背を向けた。
 絶対にドレスのことは考えまい。そう心に決めながら。


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