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 (―――きろ!)

 心地よくたゆたう。
 誰も居ないプールに仰向けで浮かんでいるような。もしくは水の中に沈んでいるような。
 そんな心地よさだ。
 もちろん、普通なら仰向けに沈んでしまうといろいろと苦しいはずだが。
 そんなことはなかった。
 当然である。なにしろ本当に沈んでいるわけではないのだから。

(――い、ざっ――!)

 なのにその心地よさを壊そうとする輩が居るらしい。
 さっきから、微かにこの世界を軋ませるような雑音が入ってくる。
 何の温かみもない、気に障る雑音だ。
 それが俺の心を乱す。
 それはとても不快なことだったが、どうにも俺はこの世界にしがみつくことは無理らしい。


 拍手御礼SS 英雄王な士郎もとい士郎子な英雄王? ここは一体誰ですか?


(起きろ! この雑種が!)

 音のない声。耳に入ってくるのは本当の声ではなく、おそらくは俺だけが聞き取れる類のものだろう。
 だからといってそれが煩くないわけではない。
 しかし、俺の意識はまどろんでいる以上、この声に対して五月蝿いなどと叫ぶことは出来ない。
 止めることが出来ないなら、自分の意識がどうなるかは簡単なこと。

「あっ、あう――」

 ギルガメッシュの声で起こされたと同時に、砂を口の中に含んでしまった。
 口の中に広がる砂はお世辞にも美味いとは言えない。
 もごもごと、口の中を動かして唾液と一緒に吐き出すも、口の中の違和感は消えなかった。

(ようやく起きたか。たわけめ)

 ギルガメッシュの声を無視しながら体を起こす。
 どうやら、前のめりに倒れた際顔を強かに打ちつけたらしい。
 鼻先が無性に痛かった。
 何となく痛い場所が違う気がするのは二回打ち付けたためだろう。微妙にポイントが違う。

(まったく……。貴様が覚醒せぬと我は何もできぬのだ。何より我より後に起きるというのが気に食わん)

 ギルガメッシュの声は聞こえない振りをする。
 いくら叫んだって、多分他の人間には聞こえないのだから問題ないはずだ。多分。
 体の調子を確認する。
 どことなく体がだるい。
 自分の体に無理な宝具の使用をしたのが意識を失った原因だ。
 ただの人間である俺の体が、宝具などという大それた代物を使ったのだから当然といえば当然なのだが。

(倒れるなら前のめりではなく倒れればいいものを。おかげで暇つぶしに貴様の体を乗っ取った際に砂を食べてしまったではないか)

 成る程。口の中の砂は俺だけの失態ではなかったらしい。
 そういえば、意識を失う直前に、頬を地面に打ちつける感触もあったし。
 頬を擦り、未だに残った砂を何とかしようともごもごしながら辺りを見渡す。
 見事に何もない。
 それなりに視力はよいほうだと自負してはいるが、本当に何もない。
 一面の荒野。
 西部劇に出てきそうな風景ではある。
 それにしては、さっきの野盗もどきは銃なんて持ってなかったみたいだが。

(おい、聴いているのか?)

 どれくらい気を失っていたのだろうか。
 空に浮かぶ太陽を見上げる。
 太陽を遮るようにいくつかの雲が浮かんでいる。
 日差しがあまり強くなかったから、こんなところで気を失っても何ともなかったのだろう。
 ここが砂漠だったらと思うとぞっとしない。
 変な動物も居ないみたいだし。

(雑種?)

 とにもかくにもここが何処なのかは、此処に居たってわからないだろう。
 体についた砂をはたきながら立ち上がる。
 もっとも、体についていたのが砂なのかはわからない。
 なるべく自分の体は見ないように掃ったのだから当然とも言える。
 まあ、感触としては凹凸がないのがよかった。
 うん、桜ではなく遠坂、みたいな感じだろう。きっと。

(むむむむむ。まさかとは思うが聞こえておらんのか?)

 何となく頷いてから、もう一度周りを見渡す。
 此処がどこなのかわからないのは仕方がないとして、人が居る場所に行かなければならない。
 ただ、見渡す一面荒野なので何処に行けばわからないだけだ。
 賭けだが、適当な方向に進むしかないだろう。
 この世界に人が住んでないならいざ知らず、さっきのような野盗が居るくらいだから人は住んでるはずだ。多分。
 とりあえず、野盗が逃げていった方向と反対側に進むことにする。
 見たところたいした奴らではなかったが、自ら危険に近づく必要もないだろう。

「うわっ!?」

 そんなことを考えながら歩き出そうとしたために、またしても転びそうになってしまった。
 つんのめった足先に、運悪く突き出した小さな石があってそれに爪先を引っ掛ける。
 転びかけて何とか踏みとどまったが足は支えきれずにいて、まるで踊るように前へと進んでいく。
 下手すると普通に歩くよりも速い。

「うっ、わっ、とっ!」

 といっても、そんな芸当が何時までも続くはずもない。
 考えまいとしていたが、やはりこの体は自分であってもはや違う自分なのか。
 何とかこの状況を打破しようにもイメージ通りに動かない体はいつまで経っても体を支えきれない。
 それどころか次第に足が限界に達し始めているような気がしてくる。

(おい、雑――)

「あっ」

 そして、ついに体が完全にふわりと宙に浮かんでしまった。
 自分でも間抜けな声を出したと思ったが割合、可愛らしく聞こえたのは何と言うか問題だと思う。
 そんなことを考える余裕があったのは良いのか悪いのか。
 何しろ俺は羽のない普通の人間である。
 そりゃあ、今の俺は普通じゃない事態に陥ってはいるけど。
 まあ、思考は何となく高速で、死ぬ間際の走馬灯に近いもののような気がするが、肝心の体がまったく反応しないのだから意味がない。
 結局、俺は次第に近づいてくる地面に対して、顔をそらすことも出来なかった。

「うぎゃ!?」

(しゅる!?)

 今日三度目のダイブは、思ってたよりもずっと痛かった。
 このままにしていたら、もっと痛くなりそうなのだが体中が痺れててどうにもならない。

「雑種。我は寛大な王だとは思うが、さすがに三度目はきついぞ」

 いつのまにかお口の主導権を奪ったのか、ギルガメッシュが地面にキスしたままで声を出した。
 凄いとは思うが、ちょっと間抜けだと思う。砂は入るし。

「何、貴様が意識を失っている時暇だったのでな。とりあえず喋っていたのだ」
 それは――とんでもなく間抜けだと思う。今よりも。
 それはともかく、俺の考えていることがわかるのだろうか?

「当然だ。我が主導権を奪えば、貴様の声は筒抜けよ」

 それはいい――いや、よくはないがこんな状態で喋って気持ち悪くないのか?
 俺は気持ち悪くてしょうがない。

「勿論、我には砂などを食す習慣も嗜好もない。不快であるに決まっておろう」

 じゃあ、なんでしゃべる? ああ、言わなくて良いぞ。
 喋りだそうとした口に先んじて、何とか首と両腕の三点に力を込め口を塞ぐ。  

 つまり、お前は俺同様に痛みを感じるんだな?

「そうだ。どうにも鼻先がひりひりするのはいかん。一度や二度なら経験した事なき珍事として受け入れられるとしても三度目ともなると飽きがくる」

 いまいちよくわからんが、疲れる。
 ようやく痺れが治まってきた体を両手で支え、ゆっくりと立ち上がる。
 ちょっと歩いただけで、歩き出そうとしただけでこけるような現状を前にすると、相手をするのは疲れる。ほんとに。
 そうして、身長に砂を払っている最中に、それは目に入った。
 ついさっき、見たような風景だった。
 それは土煙を上げながら近づいてきていた。
 違うのはその数が三倍以上に膨れ上がっていることだ。

「ふむ、賊の類か。品のない顔をしている」

(まあ、見ればわかるさ。問題はこの人数に対してどうするのかってことだろ)

 馬上から向けられる視線は四十六。
 その数なんと23人。数に意味はあるのかどうかはどうでもいいが、視線以外に銃口が向けられているのはうれしくない。

「ひゃははははは。さっきはなんか大砲みたいなのにびびったが、今度はこっちも本気だ」

 たしか、俺の頭が逝ってるとか何とか言っていた男が、腐った笑いを浮かべながら得意げに話す。
 背後に居る男達も浮かべてる笑みの下品さは大差ない。
 さっきは何で銃を持ってなかったのか、とか、わざわざ俺一人にたいしてこの人数を連れてきたのか、と思うとげんなりする。
 成る程、随分と年季の入った、いや、ぼろっちい拳銃を皆さん持ってらっしゃる。
 本当に西部劇に出てきそうな銃だけに、自然と顔が引き攣った。

「はは、今更びびったっておせえぞ」

 うん。解析はしてないけど、きっと暴発するぞ。あれは。
 まあ、必ずではないだろうけど。

「うむ。貴様の見立ては間違いではない。おそらくは三回に一回はそうなるだろう。まあ、我が使えばそんなことはないだろうがな」

「あっ?」

 何となく西部劇っぽいから賞金首と名をつけたいけど、何処からどう見ても小物っぽいのでやっぱり野盗でいいと思う。
 そいつらは、俺の口を勝手に使ってるギルがメッシュの弁に一同ポカンとしている。
 自分達で俺のことをキチ〇イ等と評したくせにもう忘れたのだろうか。

「まあ、雑種の中にもいろいろと階層があるのだ。お前は、まあ、まあまあの雑種だが、こいつらはゴミのような雑種であろう」

 結局口を開いても、俺に喋りかけてくるのは、さっき俺が無視したせいなのだろうか。
 さすがに、意識をとばしていた野盗も、皆憐れむような目で俺を見ている。もういいや。
 それでも無視しているという侮辱に勝るわけではないらしく、先頭の男の機嫌はすこぶる悪い。

「て、てめえ。この銃が見えてねえのかよ!?」

「見えておるが、それがどうした?」

 全部で銃を越える銃口を向けられながらも、ギルガメッシュの声は悠然としている。
 女になっちまった俺の声だけど、喋るやつが喋ればこんなにも高慢ちきになるんだなぁ。気をつけよう。
 それよりも、なんでそんなに自信満々なのさ。
 体は痛い。魔力はない。
 今の俺に何ができる?
 曲がりなりにも銃を持った相手に。

「ふん。雑種が。王と言うものは時にして自らの命運を試さねばならんときがあるのだ」

(それって、何の手もないってことじゃないのか?)

「そう、言い換えても差し支えあるまい」

 溜め息を吐きそうにも吐けないので、気力を振り絞って訊いてみる。
 
(この状況を打破するなんかステキ宝具はないのか?)

「あることにはあるが、使えなければ意味はあるまい。なにしろ蔵を開くことすら今の魔力ではできぬのだからな」

 体の自由は俺にある以上、当然ながら肩が落ちる。俯き傍目には頭を垂れてるようにしか見えない。ただ――

「まあ、貴様の無能は今に始まったことではあるまい」

 俯いているのに声だけは無駄に自信満々で尊大なのはおかしいと思う。
 高らかに笑い声をあげる口を止めるのもなんだか馬鹿馬鹿しくて俺はいっそう肩を落とす。

「あ〜、やっぱりこいつ頭おかしいよな」

「話に聞いてたより、よっぽどひでえじゃねえかよ」

 否定できないのが悲しい。

「ま、楽しむってほど育ってないし、金目のものも持ってねえときてる。だがまあ上玉にはちがいねえ。おい」

「なんだ。下郎」

 俯いているのだから俺達に向けられたものなのかなんて判りはしない。
 案の定男はギルガメッシュの声を無視して部下らしき男に命令していた。

「こいつをふんじばって、お前の馬に乗せろ。丁重に扱えよ。大事な商品だからな」

「へへへ」

 顔を上げると一人の男がロープと布を持って近づいてくる。
 ギルガメッシュが喋る前に素早くそれを遮ると猿轡を噛ませる。
 一瞬安堵したように見えたのは、多分間違いなんかじゃないだろう。

 そういうわけで、俺は縛られることになってしまった。
 話から聞くと乱暴する気はないようなのでひとまず安心ではあるのだが。

(売られるのか。俺は)

 少なくとも、この場所は俺が過ごしてきたような安寧とした場所じゃないらしい。
 ムームーと呻く自分の声に聞こえない振りをして、俺は簀巻きにされた自分を憐れむように目を閉じた。


 
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