09 09
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 昼休み、学校の屋上で凛と共に衛宮士郎を待つ。
 屋上だけあって、吹く風はかなり強い。
 二月。季節は冬であり、幾らこの街が冬はそれほど寒くないとしても、さすがにここは寒いのだ。
 つまり――――――――我がマスター遠坂凛は、なかなか衛宮士郎が屋上に現れないおかげで、不機嫌なのである。

 扉が開く。
 衛宮士郎がやっと現れた。
 ここに人間は、凛と衛宮士郎しかいない。さすがにこの季節、このような場所で食事をするものがいるわけもない。
 密談をするには、好都合ではあるが。

「遅い! 何のんびりしてんのよ士郎!」

 凛だからといって耐えられるものでもないのである。
 つまり先ほど述べたように不機嫌なのだ。
 何故俺が二回も凛が不機嫌だと言うのは――――これで三回目ではあるが先ほどまで、彼女の怒りのはけ口となっていたからである。
 たしかに隅で寒そうに縮こまっている姿は、哀れでもあり、笑いを誘う姿でもあったが。
 だが、怒りの原因が現れてよかった。やっと凛から開放される。
 そういえば、何時から凛は衛宮士郎を呼び捨てるようになったのだろう。

「えーっと、遅れてきたのは悪いと思っているけど、その様子じゃ、差し入れは要らないか」

 そう言って衛宮士郎は手に持っていた缶紅茶、ホットレモンティーをポケットに仕舞う。
 惜しいな、衛宮士郎。それがミルクティーだったのなら完璧だったのだが。

 結局凛は、衛宮士郎から差し入れをもらいもう少し人目のつかないほうへと移動した。

「それで何の話なんだ? 学校に張られてるって言う結界の話か?」

「そうね――――。士郎、結界のこと何か感じた?」

「あー、おかしいっていえばおかしな場所は何箇所か見つけた。結界はよく判らなかったけど」

「そうなんだ。魔力感知は下手みたいだけど、場所の異常に敏感なのかしら・・・・・・」

 考え込むように呟く。しかし凛の魔力に気がつかないのだから、魔力感知は下手というより、出来ないというのが正しいだろうか。

「士郎。それじゃあ、放課後おかしな場所ってのを教えてくれない?」

「わかった。放課後案内する」

 おそらく全ての呪刻が見つかるだろう。俺でも出来るかもしれないが。まあ口出しはするまい。
 セイバーもオレも霊体化したままで沈黙を守る。

「それで、今朝のテレビ覚えてる? 新都の昏睡事件のことなんだけど」

「ああ、あれか。あれがなにかあるのか?」

 さすがに気づいてはいないか。だが衛宮士郎はそれは重要なことなのかと目で訴える。

「ええ。この時期にあんな事件が起こるってことは、聖杯戦争関係で間違いないと思うわ。調べてみないと詳しくは判らないんだけど」

「それじゃあ、学校のほかにも一般人を巻き込むような奴がいるってことか?」

 凛はそれに頷くことで肯定した。

「それで、私は夜はアーチャーと巡回しようと思っているの。それで士郎はどうするか訊こうと思って。士郎も巡回する?」

 凛はなんと答えるかわかって訊いているのだろう。

「何も関係ない人を巻き込むような奴がいるのなら、俺はそれを止めたい。セイバー、それでもいいか?」

 衛宮士郎は正義の味方を目指しているのだから。
 セイバーは同意するだろう。反対する理由はない。
 だが、はたして衛宮士郎が巡回して役に立つのだろうか。
 ろくに魔術を使えない半人前。戦闘になってもそれほど役にはたたないのは確実。
 凛はそのことをどう考えているのだろう。
 ふと、凛の方を見つめる。
 俺には凛の考えは、表情からは伺えなかった。

 そして、セイバー達も巡回することが決まり、また放課後に会う約束をし、屋上を後にした。
 放課後の呪刻の発見はそれほど難しくはなかった。
 最近物騒とのことで、帰宅時間が早まっていたのもそれを助けた。
 完成を遅らせるための邪魔。それ以外の対策がないのが悔しいが、他に手がないのだから仕方がない。
 まったく、何故ライダーのマスターを思い出せないのだろう。

「それじゃあ、士郎は先に帰ってくれる? 私はちょっと寄る所があるから。それとアーチャー。貴女も士郎と先に帰っててくれないかしら?」

「凛――――それはどういう」

「私はちょっと桜と用があるから。帰ってきて貴女たちがいなかったらおかしいと思うかもしれないわよ」

 つまり実体化して、着替えていろということか。

「それに貴女に負けたままじゃ悔しいし」

「何か言ったか? 凛」

 何か呟いたらしい凛に訊ねる。

「なんでもないわ。とにかく先に帰ってて」

 慌てているように見える。しかし今日の凛は少々迂闊な気がするな。
 まあ何を言っても仕方ないだろう。

 凛と別れてセイバーたちと帰る。
 人間1人に霊体二人か。
 どこにも寄ることなく屋敷に着く。さすがに今の状況で、衛宮士郎はバイトなどとは考えないだろうが。
 セイバーや俺が一緒にいる以上、そんなことは考えるはずもないか。

 昨夜、俺達は凛と同じように部屋を与えられた。
 衛宮士郎はそういうところが頑固だ。
 霊体化出来るとはいえ、さすがに一緒の部屋は衛宮士郎にはきつかったのだろう。
 それでも、セイバーの部屋は俺のときと同じ隣の部屋だ。
 俺は部屋は一応凛の部屋の隣である。今朝セイバーと食事した場所でもあるが。
 俺もセイバーも睡眠をとる必要がない以上、それほど使用することはないだろうが。
 それぞれの部屋に戻り、自分の服を着る。
 しかしこの服はどうにかならないだろうか。スカートは正直つらい。
 自分の現状を否定しての仕方がないが、それにしてもどうしてと思いたくなる。
 何故この体は女なのだ。

 居間に移動する。他にはまだ誰もいないようだ。
 二人とも部屋にいるのだろうか。
 セイバーが入ってくる。俺の記憶と同じ姿。
 何故凛は俺とセイバーに違う服を与えたのだろうか。背格好は同じだというのに。
 赤は嫌いではないが。
 無言でセイバーは座る。その姿は清冽で、俺は見とれてしまった。

「アーチャー、どうしたのですか?」

 怪訝そうに訊いてくる。俺の態度を怪訝に思ったのだろう。

「いや、すまない。つい君に見とれてしまった――――」

 なんてとんでもないことを言ってしまった。

「っ――――――――」

セイバーが赤面し、そのまま俯いてしまう。

 馬鹿か俺は。何正直に思ったことを話しているんだ。
 この悪癖はもう直ったと思っていたのに。どこかのくどき文句か!

「あれ? セイバーもアーチャーも何かあったのか?」

 いつのまにか衛宮士郎が居間に来ていたようだ。
 それにすら気がつかないとは、まったくどうかしている。
 セイバーもかなり驚いたようだ。

「いえ、何でもありませんシロウ!」

 セイバーはあたふたして言った。それでは、何かあったようにしか見えないかももしれないが。
 俺もそれに追従するように頷く。何かしゃべると墓穴を掘りそうだ。
 どうもこの体になってから調子が狂う。

「そっか。そういえば訊きたい事があったんだけど」

「なんでしょう、シロウ」

 セイバーも居住まいを正す。もちろん俺も相応の態度をとった。

「学校の結界を張ったサーヴァントはまだわからないだろう。だから、今分かってるサーヴァントのことだけでも訊いておこうと思って」

 そこで一度、間をとり。

「セイバー、アーチャー。もう一度バーサーカーと戦ったら勝てるのか? それとも出会ったら逃げるしかないのか? セイバーはやっぱり俺がマスターのままじゃどうしようもないのか?」

 ほう。少なくとも、巡回する上で、最も警戒すべき相手は解っているという事か。
 しかし、そのように矢継ぎ早に。器が知れてしまうぞ、衛宮士郎。冷静さを保つというのは得てして重要だ。

「シロウ。それは違う。バーサーカーは強敵だ。マスターが誰であろうと私は苦戦するだろう。このことで貴方が自分の未熟を責める必要はない」

「だけどセイバーはいろいろと制約があるんだろう。もし本来の姿だったら」

「いえ、私が万全であろうと彼を倒すのは難しい。いえ、どのようなサーヴァントでも、彼を追い詰めることは不可能かもしれない。シロウ、彼の宝具を聞いたでしょう?」

「ああ、確か十二の試練って、命が十二個あるってことだよな。アーチャーが一回殺したらしいから後十一個みたいだけど。確かにあれを十二回も倒すのはちょっと想像できないな」

「そう、十二の試練。確かに命が十二個あることも厄介ですが、おそらくはもう一つ特性がある」

「もう一つの特性?」

「ええ、おそらく。彼の宝具は命のストックであると同時に鎧です。それも概念武装といった魔術理論に近い。彼の体は神話にある十二の試練を越えた。つまりそれを下回る神秘はすべて無効化してしまうのでしょう。私の剣では通用しないはずです。彼がヘラクレスであるならば、その能力は、おそらくAランク。彼に傷を負わしたければ、少なくとも、同じ攻撃数値を用いなければならないと思います」

「それじゃあ、セイバーは・・・・・・」

「私の攻撃は通用しないでしょう。私は通常攻撃も風王結界もAランクには届いてない」

「それじゃあ、勝てないってことか?」

 彼女は一瞬こちらに視線を向け、答える。

「いいえ、そうとも限りません。彼には対城宝具レベルの攻撃手段はない。襲われたところで、一撃で全滅するということはないでしょう。それに私の傷が癒えれば少なくとも対等の一騎打ちは出来る。そうなれば、シロウも撤退できるし、何よりアーチャーの援護があります」

「あ――――――――」

「彼女は一度、バーサーカーを殺している。ならば、彼を倒す可能性がないわけではありません」

「たしか、アーチャーは通常攻撃がAなんだよな。なら普通に攻撃してもバーサーカーを殺せるのか?」

 衛宮士郎がセイバーから俺に話を移す。

「いや、おそらく接近戦では無理だろう。確かに傷を負わすことは出来るかもしれんが、致命傷には遠いだろう。何より私とバーサーカーでは速度に違いがありすぎる。セイバーならともかく、アーチャーの私では、バーサーカーに一撃は加えられまい」

 俺は思ったことを話す。よほどの隙がないと、致命傷を与えるのは難しい。

「じゃあ、バーサーカーを倒すにはアーチャーの宝具に頼るしかないってことか」

「そのことだが、おそらく昨夜の宝具はもう通用しないだろう」

「あの攻撃がですか?」

 セイバーが驚いたように訊ねてくる。

「ああ、彼は“あの”ヘラクレスだ。同じ攻撃は二度と通用しまい」

 そう。バーサーカーにはカラドボルクはもう効かないだろう。
 セイバーもそれで納得した表情となる。

「じゃあ、バーサーカーに会ったら撤退するしかないってことか」

「そうだろうな。少なくとも、私と凛がいる以上、イリヤが強力な魔術師でも逃げることくらいは出来るだろう」

 奴を倒すなら、俺がカリバーンを投影し、セイバーが使えば一度は殺せるはずだ。
 凛の魔術も全てが通用しないわけではないだろう。
 だが、そのためには奴の力を弱らせなければならない。あの時カリバーンで七度も殺せたのは、あのアーチャーの力によるところが大きい。完全な修復ができていなかったから、バーサーカーを一度で数回殺すことが出来たのではないか。
 もちろん、それが思い違いである可能性もある。
 しかし、六度分の死。それを成す事は難しいことは確かだ。俺が奴を六度も殺すには消滅覚悟で挑まねばならないだろう。
 俺が不意打ち以外、真っ向勝負で奴を倒すなら、殺すか殺されるかだ。
 今回セイバーは前回よりも魔力が多いはずからエクスカリバーを使っても現界不可能とまでは行くまい。
 俺が出来る限り殺し、セイバーがカリバーン、もしくはエクスカリバーで勝負を決める。
 それでセイバー達は勝てるかもしれないが、俺は確実に消える。
 それでは凛を勝たせることは出来ない。
 まだあのときのアーチャーのような場面ではない。勝つチャンスがある以上消えるわけにはいかない。

「そうか、それじゃあ他のサーヴァントだけど」

 衛宮士郎が続けて問おうとしたが。

「シロウ。誰かが門をくぐったようです」

「どうやら凛が帰ってきたようだな」

 俺とセイバーはほとんど同時にその気配に気がついた。

「お邪魔します」

 桜も一緒か。

「ただいま。みんなそろってるのね」

 買い物袋を提げた凛と、

「お邪魔します。先輩、セイバーさん、アーチャーさん」

 どこか嬉しそうな桜だった。

 しかし、凛の買い物袋は・・・・・・なるほど。

「セイバー、これから君の部屋に行ってもいいか? 食事の準備の邪魔をすることもないだろう」

「私は構いませんが。そうですね、行きましょうか」

「では、桜。食事のときにまた会おう」

「それでは桜、また後で」

 俺とセイバーはそれぞれ桜に挨拶して居間を出た。
 時刻は六時前くらいか。
 セイバーの部屋で向かい合って座る。
 しかし無言だ。
 セイバーの魔力。俺のときの彼女の魔力を1000としたら、今は1300くらいだろうか。
 つまり制限された上での万全、といったところ。
 今回はバーサーカーの傷を癒す必要もなく、衛宮士郎から魔力も送られてきている。
 しかも霊体化ができるのだ。本来の力ほどはないようだが、俺のときほどは消耗はしないだろう。
 無理に数値にするならば現界に必要な魔力が一日6程度に対して、衛宮士郎からは60〜70送られてきているようだ。
 何故衛宮士郎にそれほどの魔力があるのかは分からないが、これは嬉しい誤算という奴だろう。

 衛宮士郎が部屋に戻ってきたようだな。

「入るぞ」

 立ち上がり、返事を待たずして隣の部屋に入る。

「あ、アーチャー。何の用だ?」

「失礼します、シロウ」

 セイバーも俺に続く。

「なに、先ほどの話の続きをしようというだけだ。まだ訊きたい事があったのだろう?」

「ああ――――それじゃあランサーのことなんだけど。セイバーはあいつの正体が分かるのか? アイルランドの何とかって言ってたけど」

 それからセイバーは、ランサーの真名。宝具の使い勝手のよさを。
 俺は奴の持っているだろう矢よけの加護を話し終えたころ、凛が夕食に迎えに来た。

 夕食は中華だった。それも見るからに恐ろしく気合が入ったものばかり。
 やはり、凛が料理したのか。

 虎――――藤ねえは新たなジャンルの料理の登場に、喜びを隠せないらしい。大河と呼ぶか……。
 だが、俺達の方を見て、

「士郎。この子達が、朝言ってた娘達?」

「ああ、セイバーとアーチャー。親父を頼ってきたらしいんだ。見てのとおり外国人さんだから、助けてくれるとありがたい」

 衛宮士郎が紹介する。

「セイバーです」

「アーチャーだ」

「え〜と、詳しい話はまだ聞いてないけど、とりあえずお姉ちゃんもうおなかペコペコだから、ご飯の後でいい?」

「かまいません」

「問題ない」

「そうですね。中華は冷えると殺人的に不味くなりますから。早く食べましょう」

 凛が皆を促す。さすがに猫はかぶったままか。


 そして夕食が始まった。全員がいただきますをする。
 凛は俺の方を見て悔しそうにしていたが、衛宮士郎の方を見て複雑な顔をしていた。
 衛宮士郎に勝ったのは嬉しいが、サーヴァントたる俺に負けたのが悔しいのだろう。
 衛宮士郎は俺に続けて、凛に負けたのがよほどこたえたのか。
 表情が少し虚ろだ。
 頑張れ。そうすれば、いつか俺くらいには必ずなれるはずだ。場合によってはそれ以上もな。
 桜は心からおいしそうに食べているし、藤ねえ――――大河は凛に満点をあげている。
 セイバーがどうなのかは言うまでもないだろう。

 賑やかなままで夕食は終わった。
 さて、問題はここからか。
 衛宮士郎は大河に改めて俺達のことを紹介する。
 十分も説明しただろうか。大河は一応の納得をしてくれた。

「切嗣さんの知り合いじゃしょうがないか。えっと、それで朝のご飯を作ってくれたのは、どっちなの?」

「私が作った」

「そっか。ならアーチャーちゃんは合格ね。士郎より美味しかったし。それじゃあ次はセイバーちゃんか」

 う〜んと考え込んでいる。
 俺の役割は料理……ということだろうか。

「たしか切嗣さんに士郎を守るよう言われたのよね」

 確かにセイバーはそう言った。ということは――――

「じゃあ、腕前を見せてもらうわ」

 やはりそうなったか。



 ぞろぞろと道場に移動する。
 大河は壁に立てかけている竹刀を手に取った。
 どうやら俺のときとは違ってセイバーにも竹刀を渡すようだ。
 セイバーは、手元の竹刀を見て興味深そうな顔をしている。
 それに大河は何の合図もなくいきなり踏み込んで――――――――


 忘れていたことも、似たような場面を前にすれば思い出すのか。
 確かあの時は、何も持ってないセイバーに竹刀を叩き込もうとして。
 いつのまにかセイバーの手に竹刀が移っていたのだ。

 だが、今回はそれとは違う結果になった。
 前回ほどの横暴ではないが、不意打ちには変わらない。
 しかし、大河は竹刀を振ることも出来ずに止まっていた。
 目の前に竹刀の先が現れたからだ。

 そのまま振り上げていたいた竹刀を下ろす。

「う〜ん。こんなに強いんじゃ、認めないわけにもいかないか。士郎のことよろしくね、セイバーちゃん、アーチャーちゃん」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」

「ああ、まかせるがいい」

 予想外だ。ここまで聞き分けがいいとは。
 あの咆哮を警戒していたのだが。
 むしろ友好的だぞ。朝の食事が効いたのだろうか。

 午後十一時。街が眠りに着いたころ、屋敷を出る。
 桜も大河ももう帰宅した。

「とりあえず、新都に行くわよ」

 凛の声に衛宮士郎は無言で頷く。俺もセイバーも霊体化しているから姿は見えない。
 何も異常がないことが一番だと思う。
 それでは手がかりは見つからないが。
 夜の巡回。この静かな夜、安らかな眠りであらんことを――――――――

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