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 その姿は黒い弓をこちらへと向けて――――


「ちっ」

 閃く銀光。
 瞬時に右手に投影した剣で防ぐ。僅かに魔力を籠められていたのか。
 衝撃に耐えられず、右手の剣が消え去る。
 まずい・・・・・・。弓で打ち出されると早すぎて、投影で相殺できない。避けるか弾くしか手がない。
 距離があれば違うかもしれないが。


「なるほど……」

「―――!?」

 今、確かにあいつはそう言った。何故だかそれが理解できた。

 あいつは、赤い外套を翻し、音もなくキャスターの隣に着地する。その手に黒い弓を持ったままで。

「遅いですよ、アーチャー。何をしていたのですか、貴方は!」


 とりあえず助かったことでか、かどうかは判らないが、キャスターは姿を現す。その声は幾分余裕を取り戻した様でもあった。

「まぁ、そう言うな。間に合ったのだから問題あるまい」

 記憶と同じように、あいつは皮肉気にキャスターに言葉を返す。
 その声は俺の心にも幾分冷静さを取り戻す結果となった。
 どうやらあいつはまた、アーチャーらしい。俺と同じ。もっとも、俺もあいつもアーチャー以外、該当しないのだろう。しかし、この二人はまさか……。
「貴方は、自分の立場というものを理解しているのかしら」

 キャスターは微かに頤を上げ誰がここの主なのかとでも問うように言葉を放つ。
 あいつはそのキャスターの姿に、微かに目を細めると、嘲笑した。
 まるで、何の痛痒もないとでも言うように。

「言ったはずだ、私はいつでも自由になれると。なんなら、君と同じことをしてもよいのだがね」

「っつ」

 悔しげな声をキャスターは洩らす。
 どうやら、イニシアチブはあいつのほうにあるようだ。しかもキャスターはわりと気が短いらしい。少し考えれば、今は、あいつにその気がないのは明らかだ。そうでなければ、キャスターを救ったりはしないだろう。おそらく、あいつとキャスターは協力関係。それもキャスターとアサシンの関係とは違った。まあ、友好的でないことは確実のようだが。
 二人のサーヴァントは剣呑な気配を出してはいたが、俺は動けなかった。キャスターはそれほど問題ではない。彼女は戦いに慣れていないのだろう。どこか甘い印象を受ける。問題なのはあいつだ。あいつは決して俺を視線から外してはいない。その時、ちょうど隠れていた月が、姿を現した。あいつは俺をよく見てはいなかったのか? 一瞬、そう一瞬だけあいつの表情が動いた。驚愕したのだろうか。何に?
 それに舌打ちをしたのか、苦々しい表情を見せる。
 再び皮肉気な表情に戻ったようだが、あいつは位置を変えはしない。
 この距離では俺の脚より矢のほうが早い。
 どうやら引くのは無理のようだな。

(凛、無事か?)

(―――何かあったの、アーチャー。セイバーに何も起こってないから士郎は助けたみたいだけど。無事かって……)

 ふむ、どうやら無事のようだ。そして、対峙するアーチャーの存在にも気づいていない。とするとアーチャーは正面から来たわけではないのか。

(いや、少々気になってな。で、何かあったのかといえば、実はサーヴァントが一体増えてね)

 冷静に考えれば、マスターに何かが起こって俺が気がつかないわけがないか。
 俺も、まだかなり動揺していたようだ。

(増えたって、どういうこと、アーチャー!)

(どういうことも何も、キャスターは二体のサーヴァントと共闘していたというわけだよ。さすがに私も、この状況は考えてなかったな)

(嘘、じゃあ、ライダーもいるっていうの)

 凛でも、これは驚くか。

(違う、ライダーではない……アーチャーだ)

 凛が息を呑む様子が感じられる。

(アーチャーって、何でサーヴァントのクラスが重複してるの。ライダーはいないってことかしら)

(さあ、さすがにわからん)

 あいつがサーヴァントとして存在している原因は不明だが、ギルガメッシュの例もある。何より俺がこんな姿で存在している以上、それほど驚くべきことではないかもしれない。
だが、恐らくライダーはいるはずだ。あの結界は宝具のはずだし、あれを他の奴は真似できまい。少なくとも俺には不可能だ。

(それで、突破できそうか?)

 少し間があってから、答えは返ってきた。

(無理ね。あのサーヴァント。とんでもないなんてもんじゃないわ。剣の腕ならセイバー以上かもしれない。アサシンが攻めてくれば違うのかもしれないけど。その気もなさそうだし。アーチャー、戻れそう?)

(私一人なら、どうとでもなるのだがな)

 ちらりと衛宮士郎を見る。あまり時間をかけすぎると、セイバーがアレを使ってしまうかもしれない。それにアサシン相手では凛の援護も期待できないだろう。

 ふいに夜気を裂いてあいつの声が響く。

「ふむ、あまり待たせるのもよくないな。キャスターよ、そろそろ落ち着いたらどうだね。君のその様では呆れられても仕方ないぞ」

 俺が凛と会話していたことに気がついたのか? あいつ。
 意味ありげに笑みを浮かべる。
 どうやらおしゃべりもここまでのようだ。
 キャスターも気を静めたらしく、先程まで聞こえていた罵倒の声が止んだ。

「ふむ、キャスター。それで君はどうしたいのかね?」

 アーチャーの声は、問というよりはむしろ確認の様に感じた。
「どうって――――。ふぅ、そうね。そちらの坊やは殺してしまいましょう。はじめからそのつもりだったのだし。ああ、きれいな形で殺して頂戴。令呪を剥ぎ取らないといけないから」

 キャスターの殺気が足元の(まだ立ち上がっていなかったのか)衛宮士郎に向けられる。弧を描く唇は美しいとは思うが、それよりも不安を覚える。

「小さなアーチャーは、解るでしょう?」

「残念ながらな。まったく、君は節操がないな」

 呆れながらもアーチャーの体が撓む―――!

「衛宮士郎、私から離れ―――」

 アーチャーから放たれる九条の弾丸。その先は俺だけではなく。

「くっ」

 俺は衛宮士郎を左手で抱え上げ、横っ飛びにそれらを避ける。
 視界の端にアーチャーが消えるのと、キャスターが何かを呟いたのが見えた。
 それと同時に現れる骨の兵士。竜牙兵と呼ばれるゴーレムの類か。
 それは数えるのも馬鹿らしいほどの軍勢。それが俺達を包囲していた。
 くそっ、衛宮士郎を俺から離さないつもりか!
 瞬時に空いている右手に長剣を投影する。

「あ、アーチャー。俺を――――」

 衛宮士郎の声を遮るように飛来する数条の矢。流星のようなそれは巧みに逃げ道を限定する。
 衛宮士郎では避けることもできない速度。それをぎりぎりで避け、群がる骨をなぎ払う。
 だが、その間にも銀の流星は休むことなく落ちてくる。
 連射を優先させているらしく、先程のような威力は感じられない。だが、厄介さではそれ以上だ。
 あいつが、弓兵に徹している現状。すでに狙撃されているという状態が完成している今、俺には接近戦を挑むか、撤退しか手が残されていない。
 だが、接近戦は衛宮士郎を抱えているためさらに危険だ。撤退するにもゴーレムの数が多すぎる。まったく、キャスターの魔術は効かないなどと安心していたのか。自ら視野を狭くしていたらしい。

 あいつはもう気がついているはずだ。確かめたのだから。
 空気を裂いて迫る矢を避ける。
 なら、隠す必要などないだろう?
 何かを叫んでいる衛宮士郎を無視する。
 この状態では、時間がかかる。
 邪魔なゴーレムを散らす。
 ほんの僅かに思考を割いて、取り出していく。
 こちらを悠々と眺めているキャスターを横目に。

「投影、開始」

 衛宮士郎に聞こえないよう、呟いた。
 音もなく無数の剣を浮遊させる。

 いまだ、不快な音を鳴らす無数のゴーレムとキャスターに向けて。
 豪雨と化した剣群で一掃する。
 まるで先程までの光景が夢であるかのようにすべてが消え去った。
 剣も骨も残りはしない。
 まだ、引くのは難しい。あいつの狙撃が

 ―――矢が止んだ?
 それが油断だった。戦いの場では刹那の思考の停止が命に係わる。

「―――Ατλασ―――」

「しまった!」

 空間を渡ったのか。視認できない以上、今は解らない。
 キャスターから放たれた魔術は圧迫。たとえ、その効果を一瞬で打ち消せるとはいえ、隙には変わりない。
 その間にあいつは――――全てを終えていた。





interlude





 キャスターの声が聞こえた。そう思ったときには俺は中を舞っていた。

「がっ―――!」

 地面に叩きつけられる。痛みに耐えながら、アーチャーの方へと目を向ける。キャスターの魔術か、アーチャーは固まっている。
その双眸に諦観のような憤怒のような色が混ざる。それは一瞬ではあったが、次の瞬間悪寒が走った。


 殺気。それはアーチャーに向けられているのに、その余波ですら、吐き気を催すほどだ。
 矢をばら撒きながら距離をとっていたのか、その体躯は、遥か先にある。
 そう、あの騎士が弓に添えているのは俺が見たことのある。

 その時聞こえるはずのない声が聞こえた。

「I am the bone of my sword――――我が骨子はねじれ狂う」

 その声はひどく俺の頭に響く。
 赤い騎士はあの夜がアーチャーが放ったモノと同じ矢を。

「偽・螺旋剣――――カラドボルグ」

 その手から矢を放した。
 “矢”はあの夜と同じ軌跡を描き、アーチャーへと襲い掛かる。
 それは一秒となかったはずだ。
 その僅かな間に大気を捻じ曲げながら目の前に迫る“矢”に向けて彼女は、

「I am the bone of my sword――――体は剣で出来ている」

 赤い騎士とまったく同じ言葉を口にした。

「熾天覆う七つの円冠――――ロー・アイアス!」

 轟音が境内に響き渡った。
 真名と共に展開された七つの花弁を突き破ろうと破滅の矢は猛威を振るう。
 それは盾だった。それも宝具と呼ばれる。
 何故“アーチャー”を冠するはずの彼女が盾を持っているのか。
 そしてあの赤い騎士がアーチャーと同じ“矢”を持っているのか。
 解らないことはいくらでもあったけど、そんなことは考えられない。

「ああああああああああぁっ――――」

 アーチャーの叫びに呼応するように盾が力強さを増す。
 この調子なら、あの矢は盾を貫くことなく止まる。
 だけど、この状態が間違い。きっとあの赤い騎士は―――

 そう思ったときには走り出していた。
 アーチャーとの距離は10メートルもない。その距離がもどかしい。


カランッ


 “矢”が音をたてて落ちる。
 そして消え行く盾を構えているアーチャーに飛びつく。

「なっ、馬―――」

 驚いたようなアーチャーを押し倒しながら、その時、
 背中に灼熱を感じた。

「う――――あ」

 声にならない。力が入らず、アーチャーに圧し掛かってしまう。
 駄目だ。これじゃ助けるどころか、邪魔になっている。
 早くどかないとアーチャーが逃げられない。
 だが、力が入らず、起き上がろうとして失敗した。
 それも当たり前。なんてったって、血が流れすぎている。
 あまりに鋭利な痛みは、あっという間に意識を奈落へと落としそうだ。

「ああ、なんて、間抜け」

 助けることだけ考えて、その後は考えてなかった。
 助けたつもりが、足手まとい。


 あれ? おかしい。雲が見える。
 アーチャーが何か言ってるけど。
 ああ、いつの間にか俺はアーチャーに抱えられていたのか。
 痛み以外の感覚がよくわからない。
 怒っているのか、アーチャーは。
 そりゃそうだ、助けに入って死にそうになられちゃ迷惑だよな。
 あれ? おかしい。どうして俺は生きている?
 追撃がこないなんておかしいだろう?
 なあ、アーチャー。何であの赤い騎士は俺を見て呆然としているんだ?


 赤い視界の中で、血に濡れた双剣を手に呆然とする騎士を見て、視界が閉ざされた。






 interlude out


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