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 interlude


 四時間目の終了の鐘が鳴り、約束の時間となる。
 すぐさま、机に掛けていた鞄を引っつかみ、早足で教室を出た。
 少し、いやかなり挙動不審な行為かもしれないが、今は仕方がないこと、と割り切るしかない。
 なにせ、誰が見ても分かるほどの、異常に膨れ上がった鞄の異形。まさしくそれは弁当のカタチ。
 大きすぎて、机にも入らぬその壮大なスケール。
 遅刻して教室に入った際、クラスメイトの男子、特に後藤くんにからかわれたのは言うまでもない。
 彼の推察は正確ではないが、あまりに的確すぎる。


「衛宮殿、その鞄から溢れ出さんばかりの姿はもしや、愛妻弁当でござるか?」

 後藤くんのその言葉に、教室の男どもの視線が一斉に俺に向けられる。だが、その無数の敵意よりも、後藤くんは昨夜時代劇でも見たんだろうな〜ってことよりも。愛妻弁当という言葉に俺は冷静さを失ってしまっていた。

「え? いや、そ、そんなこと、あるわけないですよ」

「いやいや、照れる必要はござらん。その態度が答えになっているでござるよ。いや、衛宮殿にも春が来たのでござるなぁ」

「なに〜! 衛宮、貴様本当に愛妻弁当などという、リーサルウエポンを――――」

「違う、違うって」

 どこのお人よしな侍だ!
 その後、異様に盛り上がった男どもに詰め寄られた俺は、詰問、いや尋問を受ける羽目になってしまった。
 一人だけ腕を組み、頷き続けている後藤くんが印象的ではあったが。
 そして、それが処刑にまで発展しそうにまでなったとき、それはまさしく救世主のように、我等が教室に降臨した。
 虎の降臨によって、処刑は無効。男どもの一部が虎に直訴するも、瞬く間に一蹴される。
 その時は、藤ねえを神かとも一瞬、アホなことを考えてしまったが……。
 あの顔は、絶対に分かってやっている。今、俺を助けたのは恐らく、更なる深淵の地獄に叩き込むため。
 奴の野生の勘がそうさせたに違いない。そっちの方が楽しいと。
 おかげで、遅刻のことは殆ど咎められはしなかったが、それ以上に、疲れてしまった。


 屋上に向かいながら思い出す。霊体化しているセイバーも勿論一緒だが。
 俺の部屋でこの鞄を見たときは何事かと思ったが、中身を知った時のセイバーは、顔には出してなくとも、あれは相当に喜んでいたと思う。セイバーは大抵仏頂面だけど、食事の時は目の輝きが違うから。
 もっとも、鞄を開けるまで中身が弁当だと、信じることは出来なかったけれど。
 何しろ、アーチャーが弁当を作ってくれる理由がない。彼女は、セイバーはともかく、俺の事はあまり好きではないと思っていた。たまに刺す様な視線で俺を見ているときがある。あまり俺とは関わらない様にしている節もある。今朝は幾分今までとは違っていたけれど……。
 セイバーはアーチャーが弁当を作ってくれた事を不思議には思っていないようだったが。
 やはり、セイバーとアーチャーは何か関係があるのだろうか。
 セイバーも気にはなるが、会ったことはないとはっきり言っていたし……。

 屋上の扉を開ける。さすがに二月だけあって、かなり風が冷たい。

「遅かったじゃない、衛宮君」

 どうやら、遠坂はすでに来ていたらしい。風でなびく髪を押さえてこちらに近づいてくる。
 ってかこの台詞、もう三回目かもしれない。ついでに俺の答えも。

「あー、これでも急いで来たんだが。待たせたなら悪かった」

「いいわよ、謝らなくて。それよりその鞄は何?」

 あれ? 遠坂は知らないのか?
 人目に映らないような場所へ移動しながら、鞄からブツを取り出す。それにしても寒いな。ここは。

「ああ、弁当。アーチャーが作ってくれたみたいなんだけど――――遠坂、知らなかったのか」

 不思議に思って訊ねると、かなり凶悪な顔をして、凛は手に持つサンドイッチを、凝視している。
 ん? あ、これは――――。

「そんなの知らないわよ。知ってたらこんなの買ってないんだから。まったく、そんな大事なこと言わないなんて、朝の仕返しかしら」

「知らないって、アーチャーは? 先に行ったはずだけど・・・・・・いないのか?」

「ええ、まだ来ていないわ。どこをほっつき歩いてるんだか知らないけど、まあそのうち来るでしょう。それより衛宮君」

「ん、なんだ、遠坂」

 包みを広げて、重箱を並べながら聞き返す。う〜ん。セイバーはその格好じゃ、箸は使いにくいんじゃ――――む。これは、スプーンとフォーク、か。これなら、なんとかなるか。しかし、これはすごいな。セイバーの視線も常より熱いような。

「さっき隠した紙は何かしら?」

 やはり気がついていたのか。

「あー、それはなんのこと」

「駄目よ、衛宮君。貴方嘘吐くの向いてないから」

 第一戦は、惨敗。1R開始14秒でKO。我が防壁は紙のように貫かれる。

「そうなのか、セイバー」

「そうですね。シロウに嘘は似合わない。出来れば、そのような事は控えて頂けるとありがたい」

 む。なんか違う答えが返ってきたが。うーん、と考え込む振りをする。

「ごまかしても無駄よ。さあ、きりきりと吐きなさい」

 笑顔で迫ってくる遠坂が怖い。今朝のアーチャーの三倍は怖い。何故か後藤くんがいたら、この遠坂の姿を的確な言葉で表してくれたんじゃないだろうか。まあ、結局のところ俺は負けたわけだ。遠坂の恐怖に。

「わかった――――。これ」

 遠坂にメモを渡す。現状の危機を回避するためにメモを渡してしまったが、それは浅はかと言うしかない。
 俺は気付かれるわけにはいかなかったのだ。それを不用意に物を鞄から――――

「ふーん、なになに。伝言メモか。昼食を作っておいた。凛と、それからセイバーと食べるといい。それだけの量は作ったつもりだ。凛との約束、忘れないように。アーチャー」

 読み終わっても、メモから視線を外さない。メモが原形を留めなくなるまで、無残な姿に変わっていくのはきっと目の錯覚だろう。うん。

「衛宮くーん」

「お、おう」

 思わず身構えてしまうが・・・・・・。遠坂は大きく息を吐いてから

「まあいいわ。気を荒立ててちゃ、ご飯もおいしくないわ。それに、セイバーを待たせるのもなんだしね。お昼にしましょう」

 セイバーを見ながらそんな事を言った。そう言って箸を取る。そして皿も。どうやら、遠坂のお怒りは予想外にも無いらしい。忘れてたこと、ばれてると思ったけど。それにしても、紙皿なんて家にあったかな……。

「いえ、私は待ってなど。それにアーチャーが来てからでも」

 かなりの葛藤があったようだが、食事よりアーチャーの方に、セイバーの天秤は傾いたらしい。本当に二人は仲が言い。それは、聖杯戦争の中では異常なんだろうけど。俺はその方が嬉しい。

「大丈夫よ。無くなったってサンドイッチもあるし」

 って遠坂それはさすがに――――

「そんな。これはアーチャーが作ったものだというのに、その仕打ちはあんまりだ」

 俺よりも数段早くセイバーが反論する。その素早さに俺は言いかけた言葉は、情けなく掻き消えた。
 だが、遠坂はセイバーの剣幕などどこ吹く風で、

「冗談よ。昼休みが終わるまでには来るわ。それに、この量じゃ簡単に食べきるなんて事ないでしょ。それにアーチャーが言ったのよ。先に食べててくれって」

 アーチャーと会話してるって事か。
 確かに早々無くなる様な量じゃないけど。あー、でも食費がすごそうだ。
 そういえば、二人の仲を遠坂はどう思っているんだろうか。アーチャーにはなんとなく訊きづらいけど、遠坂だったら。

「そういうことでしたら。いただきます」

 セイバーはアーチャーの一言であっさり陥落。よし、俺も食べるとしよう。




「悔しいけど、ホント美味しいわ。確かに中華は弁当には向いてないわよ。でも、なんで英霊がこんなに料理巧いわけ? しかも、あの包丁捌きで。」

 アーチャーが危なっかしく見えるのは本当だけど、実はそれって見た目だけなんだよな。その見た目はほんとに危険だが。この味は相当の修練に裏づけされたものだと思う。

 過去の英雄が料理上手ってのはちょっと意外だけど。それに、段々巧くなっているような……。

「確かに・・・・・・。俺なんか洋食どころか、和食でも負けてるぞ。そういえば、セイバーは料理できるのか?」

「――――私にはこれほどの技量は持ち合わせていません。何しろ、シロウの食事を口にした時初めて、食事の素晴らしさを理解したのですから。これだけ言えばお分かりでしょう」

 つまり、セイバーは俺の料理を食べるまで、食事に対して価値観が違ったということかな。そんなに不味かったのか。
 思い出してでもいるのだろうか、セイバーは苦虫を噛み潰したような表情をしている。まあ、アーチャーの料理があればすぐに元に戻るだろう。

「それで、遠坂、話ってのはもう一人のアーチャーのことか?」

 セイバーの表情も真面目なものに戻る。まあ、よろしくない料理のことを、真面目に考えていたのかもしれないけど。

「そうね、それもあるけど、これからの方針ってところかしら。だけど、とりあえず、そのもう一人のアーチャーって奴の話から聞くわ。どんな奴だったの」

 セイバーも箸、いやフォークを持つ手を止めてこちらの話に注目している。

「あんまり、話せることはないぞ。俺はすぐに気絶したし、意識があるときもアーチャーに抱えられてたし」

「アーチャーに抱えられてたって・・・・・・。あいつも人の事言えないじゃない」

「ん? 遠坂、何か言ったか?」

「なんでもないわ。それより続けて。何も分からないってことないでしょう」

「ああ。外見は紅い外套を着て、白髪で軽装の騎士って感じの奴だった。戦い方ってことならアーチャーらしいアーチャーって感じかな。出てきたときも、その後も弓で攻撃してきたし。威力も、状況によりけりって感じだと思う」

 たった一つの矢で、防いだアーチャーが体勢を崩すこともあれば、防ぐのは簡単そうだけど、それこそ雨のように連射も出来るようだった。

 確実なのはその狙いがどこまでも精密なのと

「それとアーチャーと同じ矢を使ってた。たぶんあれが宝具なんだと思うけど」

「アーチャーと同じって、バーサーカーに使ってたあれ? 見間違いじゃないの? 同じ宝具を使うなんて信じられないわ」

 遠坂もだけど、セイバーも驚いているらしい。

「いや、見間違いじゃない。ほとんど静止してたし。それにあれ、矢だけど剣だったから」

 捩れた剣を脳裏に映し出す。

「剣? 剣を矢にしてたって事?」

「ああ。かなり捻じ曲がってたけどあれは剣で間違いないと思う」

「アーチャーって剣を矢にする英霊って事かしら。それにしてもなんで同じ宝具を。あれを防いだってのも気になるし」

「それなんだけど、あのアーチャー、いや、あいつでいいか。とにかくこっちのアーチャーに放った矢は、バーサーカーを殺した矢より弱かった気がするんだ」

「威力が弱い? どういうことかしら・・・・・・。やっぱり、似てるだけで違うんじゃないの」

「そんなことないはずだけど。錬度が低かったのかなあ」

「シロウ、今何と言いました?」

 今まで、黙って聞いていたセイバーが俺の言葉に反応する。

「え、錬度が低いのかって」

「なるほど、凛。確証はありませんが、シロウの答えであっているかもしれません。威力を絞っているのかもしれませんが、恐らく、そのアーチャーは持っているだけで使いこなせるところまではいかないのでは」

 遠坂は、信じられないって顔で

「はぁ? 英霊が自分の持っている宝具を使いこなせない? そんなことあるの? 宝具ってのは英霊のシンボルみたいな物なんでしょう。たった一つの武装を――――」

「凛、それは違う。宝具がシンボルという事は概ね正しいですが、それが一つとは限りません。中には複数の宝具を持っている英霊も存在しています。それに、武装が宝具だけとも限りません」

 複数の宝具か。ギリシャのアキレウスとかたくさん持ってそうだな。それに、バーサーカーの斧剣も宝具じゃないみたいだし。

「そうか、宝具すら持ってない奴なんてものものもいたわね」

「彼のようなサーヴァントは例外だと思いますが」

 悔しそうにフォークを握り締めながらセイバーが呟く。道場で聞いた話だと、アサシンは宝具なしでセイバーと渡り合ったらしいけど。

「でも、あいつはこっちのアーチャーほど強そうには思えなかったぞ」

「どういうこと? 衛宮君」

「あー、なんていうか遠坂のアーチャーやセイバーに比べたら、その、存在感が小さいというか」

「シロウ、確かにそれは重要な事かもしれませんが、それがサーヴァントの強さに繋がるわけではありません。事実、アサシンはサーヴァントとしての格は低いようですが、簡単に倒せるような相手ではありません。戦い方、相性などもありますが」

「そういうこと。まあ、バーサーカーみたいのはそのまんまだとは思うけど。そういう点ではうちのアーチャーは、クラスに向いてないかもね。あれだけ存在感があると、狙撃するにも相当距離がいるんじゃないかしら」

「しかし、彼女はクラスの割には剣を使う方を好んでいるように見受けられますが」

「そういえば、ランサーとも剣で戦ってたっけ。姿といいアーチャーらしからぬ奴ではあるわね。料理も、家事も得意みたいだし」

 本人がいないことをいいことに、言いたいことを言ってるな。ん、家事? なんでだ?

「私も、彼女に会ったことはないはずなのですが・・・・・・、気になります」

「あいつ、自分の召喚をイレギュラーだって言ってたわよ。姿も生前とは違うものだって」

「へぇ。それじゃあ、本当にセイバーの関係がある英雄なのかな」

 姿が違うんじゃ、会った事があっても分からないかもしれないし。今の姿は似てるから、セイバーの親戚だったりして。

「でもセイバー、あいつの正体が知りたいなら、本人に訊きなさい。私じゃ答える事は出来ない」

「それは承知しています。共闘関係であるとはいえ、今は聖杯戦争だ」

「そうね。あいつの話はそろそろやめて、そっちに入りましょ。昨夜のことで分かったのは、キャスターの陣営は手ごわいってことね。言うまでもないだろうけど柳洞寺を攻めるのはもう最後の手段でしかない」

 こっちは二体のサーヴァントという利点で、陣地を構えているキャスターを攻めたのに。その陣地にこっちを上回る三体のサーヴァントがいては・・・・・・いくら、セイバーとアーチャーが強力なサーヴァントでも勝てる要素が少ない。それでもキャスターのやっていることは。

「衛宮君。そんな顔しないで。ほっとくなんてことないから」

「何か手段があるのか、遠坂?」

 訪ねた俺に答えを返す前、遠坂は一度目を閉じて、そして笑った。

「そうね。力押しでは柳洞寺を落とすのは難しい。だったら、私達が狙うとしたらサーヴァントじゃなくて――――マスターよ。そうでしょ、アーチャー」

 そう言った遠坂が振り向いた先に、セイバーとよく似た姿の、彼女はいた。



 interlude out

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