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 探検隊 自爆 (一応きんぎん)



 自問する。
 何故、このような事になってしまったのだろう、と。

 あまり広いとはいえない部屋に三人。
 元々物を置かない性格であったから、普段なら狭いと感じることはなかったろうが。
 目の前で、一人がせわしなく動いているとそうも言っていられない。
 ひっそりとやっているつもりなのだろうが、この家の人間なら察するのは簡単なのではないだろうか。
 ついでに、隣に立っている一人もどこか落ち着かない様子ではある。
 その落ち着かない一人、セイバーが意を決したように言葉を発した。

「凛、このようなことは、あまりよろしくない」

 背中、というよりはお尻を突き出して机をごそごそやっていたもう一人、凛は立ち上がると腕を組んでセイバーを見つめる。

「だって、気にならない?」

「気になる、気にならないの問題ではありません。シロウに失礼です」

 セイバーの言葉はまったくの正論だ。正論なのだが。

「その、忍び込んではないはずだ。掃除のために、入っているかもしれないが……」

「あら、アーチャー。私の言いたいことがよくわかったわね。でも、本当に掃除のためだけかしら?」

 私の言葉は、あまり効果をなさなかったようで、凛は浮かべていた笑みをよりいっそう深くする。
 隣のセイバーは考え込むように、頤を下げていた。

「奴の、性格を考えるのならば、そうなのではないか」

 自分でも歯切れが悪いのがわかる。説得力はないだろう。
 
「シロウに限ってそれはない」

 その代わりにセイバーが断言した。
 先まで浮かんでいた落ち着かなさは形を潜めている。
 その瞳には絶対の自信が、凛の浮かべるものと同質で、まったく間逆のそれが光っていた。

「ふ〜ん。でも、どうかしら。衛宮くんだって立派な男の子だもの。それにセイバーみたいなこと一緒に暮らしてるんだから、それこそ、ねぇ」

 そこで、自分の名前を出さない所が凛らしいといえば凛らしいのか。
 どこかの誰かさんにわかりにくいと言われる所以である。

「とにかく、そのようなものをシロウは持っていない」

「どうかしら、私はると思うけど。賭ける? 負けたら、奢ってあげても良いわよ」

「いいでしょう。江戸前屋のドラ焼きをお願いします」

 両者の持つ自信は交差することなく、まったくの平行線を描いている。
 セイバーは数を指定しないし、遠坂は遠坂でセイバーに何をさせる気なのか。

「それで、アーチャーはどうするの?」

 一瞬思考の海に沈みかけた私を、凛が呼び戻す。

「私も、賭けなければならないのか?」

「あたりまえじゃない。ここまで来ておいて無粋って物よ」

「いや、しかし」

 無理やり連れてこられたようなものなのだが。

「そうですね。賭け事はともかくとして、貴女の意思を聞きたい。アーチャー、貴女はシロウがあれをもっていると?」

「ぬっ」

 背中を冷たい汗が流れる。
 真実の一端を知るものとしては、セイバーと凛。どちらが勝利するのかは明白だ。
 しかし、私の立ち位置。それを考えると。

「も、もっていないのではないかと」

「アーチャー。貴女もシロウを信じてくれるのですね! 良かった」

 セイバーは両手を合わせて祈る、どこぞのシスターのように感動を表している。
 悪い、セイバー。信じてなんかいないよ。

「あら、その割には自信なさげじゃない。ま、いいわ。もちろんアーチャーも賭けには参加してもらうからね」

 だから、何をさせるつもりなんだ。凛。
 邪悪な瞳を浮かべる姿は正しく悪魔のあり方。
 そもそも諸葛凛なんてある時点で、悪魔の素養たっぷりだ。色物だが……。

「さてさて、どっこからいきましょうかね〜」

「……この部屋には、物を隠す場所はそれほどありませんから」

「どこから探したらも何も、机はもう漁っていたではないか」

「いいじゃない。雰囲気って奴よ。となると、畳の下か、押入れの中ってことに」

「私が知る限り、シロウが畳を返したことはないと思いますが」

 押入れより畳が先にくる理由が訊きたい。

「まー、普通はそんなことしないわよね。でも、シロウのことだし、いろいろと念入りにやりそうなのよね」

 隠し部屋なんかはないはずだ。多分。

「では、土蔵など考えてみては」

「確かに、いろいろ置いてありそうだけど。魔術師は基本的に集中の妨げになるものは、修練場に置かないのよ」

「なるほど。雑念は命取りになる」

 何が置いてあるのか、全ては把握していなかったような気もする。
 というより、私は何時まで付き合わなければならないのだろうか。

「あらあら、本当に気が乗らないみたいね。アーチャー。セイバーだって一応考えてくれてるのに、貴女だけだんまりかしら?」

 目聡くも凛は私の気乗りしない様を見破る。
 まあ、マイペースな虎やどこかの豹のようなお嬢さんでなければ気がつくか。
 つまり、誰でもわかる。

「私は、コソ泥ではないからな」

 憮然として答えた。記憶は曖昧となっているが、あまり気持ちのいいものではない。
 自分の秘密を暴くようなものだ。
 しかし、先も言われたとおり、ここで抜けるわけにもいかないのだろう。
 視線を一瞬、押入れへと向ける。
 それに、被害を被るのは私ではないだろうし……。

 その場合に自分が被るであろう、精神的ダメージを無視して楽観的になろうと決意する。
 その時点で楽観的とは言い難いかもしれないが、そこはそれ。
 気にしちゃ負けだ。

 それがいけなかったのか。

「ははぁん。アーチャーったら、もしかしてもう目星がついてるってわけね」

 凛の不可解な言葉に目を白黒させてしまう。
 何かおかしなことを言ったつもりはないのだが。

「だから、貴女には隠し事は無理だって言ったじゃない。顔に出てるって」

 心底不思議そうな顔をしてしまっていたのか。
 凛は苦笑いしながら、説明してくれた。

「気がつきませんでした。凛、アーチャーは何を気にしていたのですか?」

 位置的に私の表情など見えるはずのないセイバーが、気がつくはずもないのだが。
 あんまり、悔しそうな顔をされても、その、困る。
 その間、俺を見て一瞬凛が口を尖らせたような気がしたが、多分気のせいだろう。

「な〜んか、さっきから落ち着かなく押入れの方を見てるのよ。あそこに何かあると見たわ」

 邪悪な笑みを浮かべた凛は、軽快に押入れを開ける。
 すまん、衛宮士郎。私は悲劇を止められそうにない。

「あら!? これなんか怪しいじゃない」

 その言葉で現実に戻った私は、凛が両手に抱えている物体に目を見開いた。
 速い、速すぎる。そして―――
 菓子箱? 菓子箱なんて知らない。

「士郎がこんなものここに置いておくわけないし。すっごく怪しいわね」

 動揺に、心臓が早鐘を打つ。
 体は固まり、凛の動作を見ているだけしか出来ない。
 何とか妨害するつもりだったが、そんな暇もなかった。
 嬉々として笑う凛に最早死角はない。
 自信に満ち溢れたまま、菓子箱の蓋を開けて……。

「ビンゴ! やっぱりあるんじゃない」

「そんな、シロウに限って……」

 指を鳴らして喜ぶ凛と、対照的に体を震わせ落ち込むセイバー。
 菓子箱に入っていたのは、私の知らない、アレだった。

「しかし、士郎って年上が好きだったんだ」

「そんな、シロウがこのような嗜好を……」

「うわっ、妹ものまであるじゃない」

「凛、その、ぶ、ブロンドのものはないのですか?」

「あ〜、残念だけど、ないみたい」

「そうですか……ん?」

 ふ、ふふ、ふふふふふふふふ。
 知らない。私は知らないぞそんな物。

「―――ャー、どう――――か?」

 なんで、私と同一人物のはずのあいつが、私とまったく違うものを……。
 そもそも、例のブツは、もっと深淵に隠してあったのではないのか。
 こんな表層に置いておいては、このように見つかるのは当たり前という――

「アーチャー!?」

「はっ!?」

 セイバーの声に呼び戻される。
 どうやら自分の世界に入っていたらしい。

「大丈夫ですか? アーチャー」

 セイバーの言葉は心配気だったが、少し顔を引き攣らせている。
 凛の方は、そう、びびっているように見える。

「あんた、大丈夫? いきなり笑い出したりして。かなり怖いんだけど」

 笑う? 私が?


「ふふ―――」

 怒りこそすれ、笑う理由はない。
 もしかしたら、見つかるかもしれない、という程度にはきちんと隠してると思ったが、まさかこんな簡単に見つかるような所においておくとは。なんと、いう愚行。
 この部屋を破壊しつくされて見つかったならばいざ知らず、まだほとんど何もせぬままに見つかってしまうとは。

 握り締める、手が金属の音を奏でる。
 どうやら、武装してしまったらしい。
 込めすぎた力は、今にも手を覆う篭手を破壊してしまいそうだ。
 全身から発する殺意は、瞬く間に部屋を覆っていく。

「お、落ち着いてください、アーチャー」

「そ、そうよ。そこまで怒る必要はないじゃない。士郎も男の子なんだし」

 僅かに、手の力が抜ける。それと同時に自分が発していた殺気も少し薄れるのがわかった。
 その隙を突くように。

「それ、――慎二のだ」

 そこに、絞り出すような声を出しながら、衛宮士郎が入ってきた。

 私を含めた三人の視線が、衛宮士郎へと向けられる。
 凛とセイバーはいたずらをした子どもが見つかった時のような、リアクションだ。
 私は自分がどんなかはわからない。

 ただ、衛宮士郎の腰が引けているのはわかった。
 大量の汗をかいていることも。

「そ、それな。俺のじゃないから。前に慎二が、なんかいろいろ言ってきてそのまま置いていったんだ。捨てるわけにも行かないし、とりあえずその菓子箱に入れて押入れに封印してたんだけど」

 凛、セイバー、そして最後に俺を一瞬見てから

「誤解させて悪かった。だけど、俺は無実だからな」

 訴えるように衛宮士郎は宣言した。

「し、慎二のですって!? なんてもの見せてくれんのよ。士郎!」

「勝手に人の物を漁るような遠坂が悪いんだろ」

「魔術師は未知なるものを探求する生き物なの。そこに秘事があれば、突っ込まずにはいられないの!」

 むちゃくちゃなことを言っているが、どうやら、危機は去ったらしい。
 珍しく、凛相手に衛宮士郎が優勢だ。

「つまり、賭けは私たちの勝ちというわけですね。凛」

 そして、強力な援軍もちゃんといる。兵力十万に匹敵する大部隊だ。

「え? まってよ。ちゃんと物はあったじゃない」

「だが、それはシロウのものではなく、間桐慎二のものだ」

「わ、わかったわよ。散歩がてら、外の空気でも吸いに行くついでに買いにいってあげるわよ。ええ」

 肩を怒らせながら凛が部屋を出て行く。
 潔くない敗者のようなものだった。

「ふふ、シロウ。完全勝利というわけですね」

「ああ、そうだな」

 幾分声が固い。その理由は、本人と私しか知るまい。
 しかし、とりあえず、天晴れと言っておこう。
 まさか、私の知らぬ物を用意して、本命を隠すカムフラージュにするとは。
 だが……二度は通じまい。

「とりあえず、居間に行こうか。遠坂が帰ってくる前にお茶でも用意しとかないと」

「そうですね」

「どうしたんだ? アーチャー」

「なんでもない、セイバー。先に行っててくれないか」

 エミヤシロウではナク、セイバーに言葉を発する。

「? わかりました。先に行っています」

 ぼうっと私を見ている男を追い払うように少し言葉を強める。

「――お前も行け。エミヤシロウ」

「あ、ああ。わかった」

 慌てたように自分の部屋から追い出された衛宮士郎が部屋から離れたのを確認すると、私は押入れの方へと目をやった。

「やれやれ」

 まだ、纏ったままだった甲冑が、ガチャンと音を立てた。


◇◇◇◇◇     ◇◇◇◇◇     ◇◇◇◇◇


「アーチャー、話ってなんだ?」

「受け取れ」

「なんだ? ゲームってこれは!?」

「大声を出すな、たわけ。これはただのゲームではない。カムフラージュのためのものだ」

「な、なんでアーチャーがこれを……」

 衛宮士郎は声を震わせながら訊ねてくる。

「理由はどうでも良い。とにかく、私には初めからばれていたと思って置け」

 衛宮士郎はその言葉にがっくりと肩を落とす。
 嗜好が知られて落ち込んでいるのはわかる。
 だが、同一人物なのだからどうしようもない。

「先日は難を逃れたが、見つかるのは時間の問題だ。そこで私も関与することにした。あの程度の防壁では、第二第三の凛の手によって暴かれるぞ」

「いや、遠坂は一人しかいないし……」

「と・に・か・く! こいつには、私の技術の粋を集めておいた。一世代前のものだが、収納しながらきちんと作動するし、生半可なことで気づかれることもない。分解してもわからんぞ。何せ技術の粋だからな」

 何しろオーバーテクノロジーだ。
 凛では絶対にわからん。
 携帯電話の比ではないのだからな。
 ついでに、もう一度つくれと言われても無理だ。自分でもあまりの出来栄えに惚れ惚れしている。
 衛宮士郎。一応説明書は付いているが、きちんと処分しておけ。

「あ、ありがとう。でも、何でここまでしてくれるんだ?」

 私が、あの手の類のもののために、何でここまでしたのか。それがわからないらしく、衛宮士郎は少し困惑しながら訊ねてきた。
 そんなのは、明白だ。決してエミヤシロウ、お前のためではない。

「セイバーが、お前を信用しているからな。それだけだ」

 私はそれだけを言い残すと、ゲーム兼収納ボックスを押し付けて、エミヤシロウの部屋から退散した。

 



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