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 「素に鉄と銀。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国にいたる三叉路は循環せよ」

 聖杯戦争。聖杯を求める魔術師達による戦。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる時を破却する」

 それに勝つための最高のカード。サーヴァントの中でも最優と呼ばれるクラス。

「――――Anfang」

 その中でも、さらに最強たる剣の英霊を、我が手に。

「――――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝が剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 ここに、至高の剣の担い手を。

「誓いを此処に。
 我が常世全ての善と成る者、
 我が常世全ての悪を敷く者。
 汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――」

 視界を乱舞するエーテルが染め上げる。
 聞こえる音が、空気を裂く音だけになる。
 その嵐がさった、召喚陣の上には。

 誰もいなかった。


 さーヴぁんとあーちゃー? (前例があったら申し訳ない)


 走ってきた勢いのまま歪んだドアを蹴り飛ばす。
 私の蹴りを避けることも出来ずにまともにくらったドアは、驚くほど吹っ飛んでいった。
 扉と言う遮蔽物を取り除いた世界が視界に入る。
 まさに大惨事、という言葉がぴったりな状況。
 片づけを考えると、頭が痛くなるのも仕方がない。

 そして、その部屋の中心に、惨事の原因と思われる、見慣れぬ物体が存在していた。

 それは剣だった。
 両刃の長剣。
 おそらくは片手剣ではなく、両手持ちのだろう。
 突き刺さっている部分がどれくらいなのかは、少し判別しがたいが、柄の長さからすればそうなる。
 無駄な装飾はなく、その身を飾るのは唾に嵌められている紅い宝石くらいだろうか。
 その宝石も、私のようなものでなければそうとわからない、と言えるくらい輝きがない。
 だが、その剣から感じられる圧倒的な魔力。それが、目の前の剣がただの剣でないことを示していた。

「え〜っと、この剣が、サーヴァントなのかしら……」

 とりあえず、呟いてみる。
 確かに、セイバーを手に入れたという最高の感触は得ていた。
 しかし、肝心のセイバーは召喚した場所には現れず、代わりに目の前の剣が落ちてきた。
 うん。多分落ちてきたのだろう。

「刺さってるし」

 サーヴァント、英霊は、人間霊のはずだ。しかし、目の前の剣は、強力な魔力があるといっても、人間には見えない。
 見えたら、ヤバイと思う。

「と、とにかく確かめないと」

 言葉に呟いてから剣に近づく。見れば見るほど普通の剣だが、何となく柄に巻かれている紅い布が宝石以上に異質に思える。
 何というか、地味な剣に対して、その赤が違和感を抱かせるのだ。

 とりあえず、剣の前に立って深呼吸。
 大昔の英雄よろしく抜けばなんとやらというのは、よく耳にするが、それ以上に抜けないってこともあるわけで。
 やっぱりサーヴァントを召喚したはずなのに目の前にあるのが剣という事実。つまり、召喚を失敗したのでは? というあまりにも疑問文にするには馬鹿馬鹿しいほどの失敗が、打ちのめしていたのである。紛れもなく私を。

「心配するな。抜けない、なんてことは君に限ってありえない」

「えっ?」

 そんなちょっと自信をなくしていたところに、何処からか聞いたことのない声が届いた。
 どことなく皮肉気な、男の声が。

「えっ、どこから……」

「何をつまらぬことを。君の目の前の物に決まっている」

 少し、声に苛立ちが混じる。
 それで、不自然に剣以外のところを見回すという行為をやめた。
 額に流れる汗を感じながら、ゆっくりと目の前の剣に視線を向ける。

「あ〜、もしかして、今喋ったのは貴方?」

「もしかしなくてもそうだ。まぎれもなく、私は君の前に突き刺さっている剣だ」

 たしかに、精霊がつくような品も、世界にはあるって聞いたことはあるけど。
 その精霊が視界にあるでもなし。なのに、声がはっきりと耳に入ってくる。この部屋の空気を震わせながら。

「どうやってしゃべってるわけ?」

「む――」

 今度の質問には即答せず、黙り込む――黙り込んでるような雰囲気だ。
 腕組みをしているような。
 しかし、剣と喋っていると言う状況は、なんというか、その、すごく間抜けな気がする。
 そう思うと、眉間に皺が寄ってしまうのだけど。

「く――さあな。私にも解らん。そもそも、こんな経験は私も初めてでな」

 なんか、いやなことを聞いた気がする。それに、最初の笑いもむかつく。

「あ――、もしかして、貴方。私が見えてる?」

「ああ、はっきりと見えているよ。そもそも、見えてなければ先程のような言葉は発せまい」

 それは、剣から目をそらして声の主を探していたときのことを言っているのか。
 それとも、傍目から見ればおかしな表情をしていたかもしれない私に対しての笑い声なのか。

「もっとも、私たちの場合、声に出さずとも問題はないがな。マスター」

 その言葉に、それはどういうこと? と、声を出す寸前で、最後の言葉の意味に思い至った。

「マスター? それって、つまりは、そういうこと!?」

 そして、さっき一瞬思ったいやなこと、「こんな経験は初めて」と言う言葉が不吉なものに変わる。

「君の言う、そういうこととやらが、私の存在に関してのものであれば間違いではないよ。わたしは確かにサーヴァントだ」

「まって。英霊って人の身でありながら、精霊の域に達した者のはず。でも貴方はどっから見たって剣じゃない」

 最早私の声は悲鳴に近い。
 実は、目の前の剣はただの宝具で、本当の私のサーヴァントは見えないのだ、なんてことであって欲しいと思ってる。
 そして、それが馬鹿げたことだってことも。

「そうだな、剣だ。わたしは剣だろう。何故、こうも自身の状態を理解できるのか考えたくはないが」

 声には自身の境遇を嘆く響きがあった。

「つまりだ。わたしは紛れもなく元は人間。そして正しく英雄なのだが」

 一歩、剣から後ずさる。

「君の強引な召喚か、それとも何かしら別の要因があるのか、私には判断つきかねるがとにかく」

 二歩、三歩と、足は止まらない。

「私は剣という形で召喚されてしまった、というわけだ」

 その言葉で、ふらふらと交代した足は、背が壁にたどり着く。視界の端に、破壊を免れた柱時計が入った。
 なんとか、腰砕けずに立っていたのは、最後にちょっとだけ残った意地なんだと思う。
 それでもやっぱり。

「ああ、父さん。私駄目みたい」

 弱音を言葉にするくらい、弱っていたのである。
 本来ならば正しくサーヴァントとして現界するはずの英雄を、何を間違ったか剣として召喚してしまった?

「ぬ、もしかして、抜いてはくれないのか?」

 それも、まったく自分では動けないなんて剣を。
 天井を仰ぐ。
 その先にあるのは星か、雲か。

 今度の弱音は声にならなかった。



 続かない。



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