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 クリスマスのねた (でも、クリスマス終わっちゃった)

「何も思いつかない。やりたいことがない」

 そう言ったときの切嗣の顔は、どんな顔だっただろうか。

 たしかそれは、衛宮士郎になって初めての時だったと思う。
 まだ、一年も経っていない。
 少なくとも――二度目以降には、こんなことを言った覚えはない。
 だから、こんな言葉を言ったのは一番最初のはずだ。

   何故、こんな言葉を発したのだったか。
 屋敷の居間は常と変わらず和風の装いに包まれている。
 そこでただぼうと座っていた私に、切嗣が持って帰ってきたものから始まったのだったか。

「どうだい、士郎。特大とはいかなかったけど、なかなかのもんだろう?」

 帰ってきて早々俺に見せたのは、切嗣の肩ほどもあるクリスマスツリーだった。
 どこで買ってきたのか知らないが、そんな大きなものを徒歩の切嗣が持って帰ってきたのかと思うと、つい溜息を吐きそうになったが、あまりにも嬉しそうな顔で自慢する姿を見ると、自然とその気は失せていた。

「そうか、もうクリスマスなんだ。何しに出かけたのかと思えば……」

 カレンダーの日付を確認しながら言葉にする。

「む、その口ぶりだと、士郎はあんまり嬉しくないようだね。年に一度しかないんだから、こういうお祭りは楽しまなくちゃ損だよ?」

 クリスマスツリーをとりあえずとでもいうように、居間に置いた切嗣は、いつも着ているよれよれのコートから、手品のように赤い帽子を取り出した。それを頭の上に乗せ、さらに何処から取り出したのか付け髭までして。

「爺さん。それ、なんのつもりだ?」

「何って、サンタクロースに決まってるじゃないか。どうだ、似合うだろう?」

「まあ、似合ってるとは思うけど。服装とはあってないと思う」

 スーツの上からコートを着てる切嗣が首から上だけサンタなのである。もさもさした白い髭の。

「はっはっは。士郎は細かい所を気にするなぁ」

 腰に手を添えて胸を張る切嗣は笑い終わると、ポケットからまた赤い帽子を取り出し俺の頭の上に乗せた。

「うん、似合ってるじゃないか」

 嬉しそうな口調で切嗣は、またコートに手を突っ込む。
 帽子を被るくらいなら悪い気はしないが。

「まさか、俺にも髭をつける気じゃないだろうな」

 思わず身構え、切嗣の手の様子を伺った。

「はっはっは。残念だけど、髭はこれ一個だけなんだ。今から出すのは、ジャン!」

 切嗣はどこかぼろい大きな白いものを広げて見せた。
 それにしても、切嗣のポケットには、どれだけのものが入っているのだろうか。

「なんだ、それ。布?」

「そうさ。一見はただの布。だけど、これは本当はただの布ではないのだ」

 布を広げると、思いのほか大きい。その布の端には、紐らしきものが見えて。

「なんと、サンタのプレゼントを入れる袋なのだ」

 中身のないその袋を、切嗣はかついでみせる。
 ぺたんとなった袋をかつぐ様は、見ていて何処か滑稽だ。

「サンタって、爺さん本物じゃないだろ」

「む、僕は魔法使いだよ。だったら、サンタクロースでもかまわないと思わないかい?」
 確かに、空を飛ぶようなそりを使うくらいだから、魔法使いでもいいの、か?
 それとも、あれはトナカイが特別なのか? 真っ赤な鼻のトナカイ?

「納得したみたいだね。そうだ、士郎。僕たちが家族になって初めてのクリスマスだ。何か、リクエストはあるかな?」

 もちろん、ものとかだけじゃなくて、何がしたいとか、食べたいでもいいからね。
 口調の軽さとは裏腹に切嗣は帽子と髭の間から、真剣な瞳で俺に訪ねているように思えて。

 そう、たしか、この時に言ったのだ。
 切嗣の言葉に、心の底から考えて、それでも――

「何も思いつかない。やりたいことがない。欲しいものがない」

 そうだ、私を見ていた切嗣の顔は、笑っていたんだ。

 柔らかい笑みを浮かべたまま、俺の頭を帽子ごと撫でると

「そうだね。まあ、いきなりじゃわからないかな。とりあえず、楽しむことから始めようか。過ぎた後に、楽しかったって思い出せるように」

「楽しかったら。それをまたやりたいって思うから?」

「そうだね。そんなところかな。うん、この際だから大河ちゃんだけじゃなくて、皆にも来てもらおうかな」

「み、みんなって、もしかして藤村組の皆のこと!?」

「もちろん。こういうのは皆でわいわいやるのも楽しいからね」

「待てっ爺さん! だからって、それはちょっと」

 人選を間違ってる――そういうはずの言葉を妨げられ

「さあ、そうと決まれば準備しなきゃ。クリスマスまでそう時間はないぞ」




 それで、あの格好のまま、クリスマスの買い物に出かけたのだったか。
 手に持つサンタ帽を眺めながら、過去ではなく、今のことを口にする。

「それで、私のこの格好はいかなる趣向かな、凛?」

「何って、着てるんだからわかるでしょ。サンタに決まってるじゃない」

 そんなことは百も承知だ。私が問いたかったのは、何故、私がサンタの格好をしているか、なのだが。

「もう着といて、理由も何もないでしょ。第一じゃんけんに負けたじゃない」

「いや、うむ。そうなのだが」

 何故かいつもより人が多くなっていた衛宮邸で、人間英霊問わずじゃんけんをさせられたのだが、私は見事敗者となってしまった。その際に、この服を渡されたのだが。
 普段、着ることを強制されている服よりは、凛に手渡されたものがマシなものに見えてしまった。ただ、それだけで着替えてしまった私の落ち度といえばそれまでなのだが。着替えも終盤に近づき、帽子の存在で初めて、これがサンタの衣装だと気がついたのは、あまりに遅すぎた。

「はいはい、ちゃんと帽子もかぶりなさい。髭までつけろ、とはいってないんだから」

 手に抱えたままだったサンタ帽を、凛が取り上げると、私の頭に被せる。
 凛の私よりわずかに高い位置にある瞳が、優しい色を帯びていた。

「うん。似合ってる。もともと赤い服着てたんだし、違和感もないわ。むしろ、可愛さ二割増ってとこかしら」

「しかしだな」

「トナカイよりはましでしょ」

「む、ランサーか。確かにあれは同情するが」

 あれとこれとは、少し方向性が違う。

「ご丁寧に赤鼻までつけられていたわね」

「ついていたのは赤鼻と、角だけだったがな」

 つないでいたのは例のごとく、カレンの聖骸布だったが。
 ランサーのことだ、楽しむことに関しては躊躇なかっただろうが、まさか犬ならぬトナカイの役まではどうだろうか。
 私同様に幸運値が低い男だが、今回は私に軍配が上がった。最下位か、その一歩手前かの違いでしかないのではあるが。
 とにかく、私よりずいぶんと強制的に、仮想を強要されたランサーを見ていながら、同様にじゃんけんに負けた私が、何も警戒していなかったのは、やはり、私が悪いのだろう。
 仕方ない。今日は一日笑いものになるか、と、決意しかけた所で思い出した。

「そういえば、奴は来るのか?」

「奴って誰よ。あんたと私の共通の知り合いで来ないのは……ははぁ」

「なんだ、その笑いは」

「アーチャーのことでしょ。残念だったわね、彼は来ないみたいよ。ま、あんまり仲が良いわけでもなし、仕方ないわね」

「よく考えれば、じゃんけんの場にもいなかったな」

 いれば、私とランサーに割ってはいる程だったろうに。

「そういうこと」

 とにかく、奴にこの格好を見られることは回避できたようだ。
 ただでさえ、いつも恥ずかしく思っているのである。こんな姿まで見られては、立ち上がれなくなってしまう。
 凛は何か誤解しているようにも思えるが、まあ、奴が来ないとわかっただけでもよしとしよう。
 凛の誤解など些細なものだ。

「それで、髭はともかくとして、袋はないのか?」

「あら、やる気になってるじゃない。もちろんあるわよ。ちょっと待って……はい」

「ふむ、いい具合にぼろいな」

「本当は真っ白なのが私は良かったんだけど」

「私は、むしろこれくらいのほうが好きだな」

「そう? ならいいけど。それにしても、どうしたわけ? さっきとは随分雰囲気違うのだけど」

「やはり、楽しまなければ、な」

 切嗣が死んでからも、賑やかな存在がいたおかげで、まったく騒がしくない、なんてことはなかった。
 だが、その後。家を離れ、街を離れ、人から離れてしまった私には、それを楽しんだ覚えはない。
 なら、今あるような偶然のときを、その中での、祭りを。楽しんでもいいじゃないか。
 何をすればいいのかわからない、といった俺を見た切嗣は、微笑んでいたのだから。

「しかし、このミニスカートはどうかと思うわけだよ。凛」

「諦めなさい」

「――承知した」

 衛宮士郎が顔を真っ赤にするのを鼻で笑い、セイバーに賛辞を受けて今度は私が顔を紅くしてしまう。
 さらにこの後、何故か葛木を伴って、いちゃいちゃしながらキャスターがやってきて、危険な目で見られたり。
 アーチャーがやってきて、感慨深い目をされてしまうのは、また別の話。



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