俺は言葉を発した後、遠坂を食い入るように見つめた。
それが気に入らなかったのかは判断できないが、遠坂の表情が固いものとなる。
その唇が発した言葉には、剣呑な響きが少なからず混じっていた。
「ん? どうしたの? 言いたいことがあるのなら早く言いなさい」
だが、そんなものが気になるはずもない。ただ、震えそうになる声を必死で隠して俺は尋ねる。
「君は、サーヴァントと言ったのか?」
「? ええ、そうよ。――――――――もしかして貴女、本当にサーヴァントじゃない?」
遠坂は少し不安げな顔をしているようだが、俺はそこまで気が入らない。
遠坂は俺をサーヴァントとして呼び出した?
つまり聖杯戦争のために俺はここにいる? だが、サーヴァントは聖杯から情報を得られるのではないのか?
いまだ少量ではあるが、情報が流れてくるが。聖杯戦争のことなどないぞ?
まあいい。聞いてみれば分かることだ。
ひそかに呼吸を整えて、遠坂に尋ねる。
「君はサーヴァントを呼び出そうとしたのか?」
「そ、そうよ。だからさっきから貴女はサーヴァントかって聞いてるじゃない」
む、遠坂、何をそんなにあせっているんだ?
遠坂の妙な所作に、眉が僅かに上がる。
「そうか。では君は聖杯戦争に参加するつもりなのか?」
「あたりまえじゃない。そもそもどうやって、サーヴァントを召喚しようってのよ。聖杯でもなけりゃ無理じゃない。それよりも、貴女は私のサーヴァントかって聞いてるの。早く答えなさいよ」
「まあまて、私は君に訊きたいことが――――」
「ああ、もううるさいわね。何でこんなことにも答えられないのよ。もういいわ」
「――――Anfang・・・・・・!」
な、まさか。
「うそだろ、こんなことで令呪を使う気か」
「うそじゃないわ。貴女は絶対私が呼び出したんだから、私の言うことは聞くべきでしょー!!」
「そ、そんなばかなことで使うやつがあるかー!!」
「うるさいうるさいうるさーい」
「なにー!!」
俺の叫びを最後に、めちゃくちゃに破壊されていた部屋は、遠坂の魔力の光に世界を塗り替えられた。
もちろん、俺も一緒に。
とりあえず、居間はめちゃくちゃだからということで遠坂の部屋に来ている。
しかし遠坂にはまいった。ほんとに令呪使ってしまうとは。
まあ、そのおかげで得たものもあったのだが。
遠坂にとっては、結構無駄なことをしてしまったのではないだろうか。
「はあ、しかし君はなんと令呪を使ったんだ? よくわからんのだが」
「う、それは――――」
「それは?」
うむ。遠坂が動揺してくれるとこちらが冷静になれるから助かる。
「だって貴女、どう考えたってサーヴァントとしか思えないのに、いきなり放心状態だし」
ぐっ、それは。
すぐさま痛いところをつかれて、先の優位が打ち消される。
「動揺はするは、腰は抜けちゃってるは、深呼吸なんかするもんだから」
次々と並びたてられる自分の失態に、僅かにそっぽを向いて遠坂を見た。
つまり?
「ほんとにサーヴァントかな〜って思ったら、令呪使っちゃった」
その言葉に、がっくりと肩を落とす。
令呪を使えば、自分のサーヴァントかどうかわかるということか。
すまん。確かにあのざまでは不安になるのも仕方がない。
仕方がないが、彼女が何を命じたのかさっぱり解らん。何かを強制する様でもないし。
「それで、君はなんと命じたんだ?」
「あんたは、私のサーヴァントか? って命じたのよ」
なるほど。だから、私に聖杯から情報が来るようになったのか。
令呪のおかげで、聖杯と完全につながったということだろうか。
ん? しかし、俺が遠坂のサーヴァントかどうか。そのことは答えていない。
俺の疑問を察したのだろうか。遠坂は
「ええ、おかげで貴女が私のサーヴァントであることはわかったわ。契約のつながりも感じるし」
と教えてくれた。確かに俺にも契約のつながりを感じる。
「で、貴女何のサーヴァント?」
俺についてわかったのはサーヴァントかどうかというだけなのか?
む。遠坂はなにか期待に満ちたまなざしを向けている。
そういえばあのとき遠坂はセイバーに並々ならぬ未練があるみたいだった。
たしかに、俺の体は小さな差異はあるが、セイバーのものの様だし。頑丈な鎧を着込んでいる。勘違いするかもしれない。
だが、聖杯の情報によると俺のクラスは
「セイバーじゃないの?」
俺が言葉を放つに先んじて、遠坂が訊いてくる。
どうやら待ちきれなかったらしい。
「いや、ちがう。私はアーチャーだ」
そもそも、俺がセイバーになることはありえないんじゃないだろうか。
俺は剣を使うことを極めることは出来ない。生み出すだけだ。
―――それとも、能力値がそれを満たせば、剣技のそれは二次的なものにすぎないのか。
どちらにせよ、俺には関係ない。俺には剣の才能もなければ、セイバーのように圧倒的な力を持っているわけでもない。
ただ、一つのことに特化していただけだ……。
「あちゃあ。痛恨のミスだわ。あんなに宝石使ったのに」
まあ、セイバーじゃないのはかわいそうだが、我慢してもらうしかない。
「まあいいわ。ミスしちゃったのはしかたがないし。それよりアーチャー。貴女どこの英雄なの?」
「ああ、そのことなのだが。怒らないで聞いてくれ」
「どういうこと?」
さすがに俺の正体を言うわけにも行かない。遠坂には悪いが。
さらにいえば、呼び出されたのが、初めてということ。
「私は元々正規の英雄ではないのだよ。さらにいえば、この姿ですら、私の生前の姿とは異なるものだからな」
「は?ちゃんと説明しなさいよ」
「ふむ。今回君はサーヴァントを召喚するときセイバーが欲しいと思ったのだろう?」
「ええ、そのとおりよ。サーヴァントの中で最優とされるセイバー。欲しくないわけがないわ」
「その意思に引っ張られたということだ。元々私はこのような鎧を着けてはいなかったのだからな。そもそも過去の伝説に私の名前はない。確固たる姿がない以上、その姿が、いろいろな要因に影響されやすいのだろう。つまり今回私はアーチャーでありながら、セイバーの格好になってしまったということだ。もしかすると今回のセイバーはこれと似た姿なのかもしれん」
こんなことほとんどでまかせだ。俺の方こそ説明してもらいたいくらいだ。
だがこの説明なら、もしこの世界でアルトリアがセイバーとして召喚されてもいいわけにはなる。
「えっと、それはマイナスってことなのかしら」
そう。それが問題だ。この体は俺のものではない。
つまり、俺はこの体で戦闘をしたことがないということだ。
ここまで体格が違うと、かなり戦闘方法も変わるだろう。
セイバーの体は本当らしく、スペックは相当高いようだが、俺に使えるのか?
「わからん。わからんが、問題ないだろう」
「問題ないって貴女……。まあいいわ。それで貴女の宝具は何なの?アーチャーってからには弓なんでしょうけど」
「いや、基本は剣だ。そもそもアーチャーだからといって弓が宝具とは限らない。私がアーチャーに適正があるのはその戦い方によるものだろう。マスター。君が私をどう思おうが勝手だが、ほかのサーヴァントに妙な先入観を持ってくれるなよ。サーヴァントはたいてい多芸だからな。まあ、私のことは遠距離戦が得意とでも思ってもらえればいい」
「わかったわ、アーチャー。覚えておく」
ギルガメッシュなんか弓なんて使わないからな。
英霊の中で、おそらくは頂点に立つ男。黄金の騎士を幻想する。
「それじゃあ、アーチャー。最初の仕事なんだけど」
ん? 何をさせる気なんだ、遠坂のやつ。
そして遠坂はほうきとちりとりを俺に投げてよこし、あろうことかこう言いやがった。
「下の掃除お願いね。あなたが散らかしたんだから、責任持って片付けてね」
な、あの廃墟をこれでどうやって片付けろというんだ?
「マスター君はサーヴァントをなんだと思っているんだ?」
「使い魔でしょ?ちょっと上等で、扱いが難しいけど」
「な――――――」
そういうやつだったな、遠坂は。
「わかった。地獄に落ちろマスター」
そう言って俺は部屋を出る。アーチャー、お前も大変だったんだな。
なんとなくだったけど、あいつも同じことをされたと思う。
あの赤いやつは気に入らなかったけど、なんか同情してしまった。同じ境遇としての親近感か? まあ、アレも間違いなく俺≠ネのだから……。
セイバー、お前が遠坂に召喚されなくて良かったと、俺は思う。
でも、結局真名は聞かれなかったな。まあ聞かれても俺自身なんと答えればいいかわからんが。
それよりも試さないといけないことがある。
俺はほうきとちりとりを部屋の隅に置いた。
「――――投影開始」
右手にある剣を投影する。
む? 投影自体は問題ないが、魔力消費が、二割増といったところか?
なら、あれの使用も、かなり魔力を消費するということか。
そのまま剣を振るう。動きは悪くない。少なくとも本来の俺より遥かに良い。良いが。
ずれがある。自分の体を完全に理解できてない。
このままでは自分の戦闘経験を体の方が裏切るかもしれない。
剣を振るう、振るう、振るう。
理解するのは簡単じゃなさそうだ。
「あっ」
気がついた。俺は何をしにここにきた?
あまりにむちゃくちゃになってたから忘れてた。
居間は、俺が暴れたことでさらにどうしようもなく悲惨な状態になってしまった。遠坂が起きなくてよかった。
「どうしよう、これ」
強敵だ。さっきまでではともかく、今のこの部屋は。
俺は、遠坂の顔を思い浮かべると、覚悟を決めるしかないと悟った。
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