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 苛立つ




「これは、シロウは無事なのですか?」

 俺に駆け寄ってきたセイバーが、気絶した衛宮士郎を不安げな顔で見つめる。
 アサシンを突破できず、衛宮士郎を助けに行けなかった彼女にしてみれば、この負傷は辛いものがあるだろう。

「――――傷は塞がっている。朝には目を覚ますだろう」

 事実、衛宮士郎の傷は完全に塞がり、こいつが怪我をしていたという名残は、無残にも引き裂かれた衣服にしか残っていない。見ていて気持ちのいいものではないが、セイバーが悲しむよりはよほど良い、か。

「そうですか。感謝を、アーチャー。貴方がシロウの傷を癒してくれたのでしょう?」

 むう。そういえばこの衛宮士郎はセイバーや凛に異常な再生能力を見せてはいなかったか。
 セイバーの感謝の言葉に、俺はゆっくりと首を振った。否と。

「違う。私は何もしていない。衛宮士郎の傷は自動的に治ったものだ。復元、に近いものかもしれん」

「では、どうやってシロウは・・・・・・」

「はいはい。そんな話は後でもできるわ。それよりも先に戻りましょう。彼の目が覚めてから訊けばいいんだから」

 凛が手を叩きながら、割って入った。

「そうですね。シロウを休ませることが先決です。アーチャー、私がシロウを運びます。貴女も体を休めたほうが良い。その傷は決して浅くはないはずだ」

「ありがたい。だが、君の格好は――――」

「アーチャー、私に衛宮君を抱えて帰れって言うわけ?」

「ふむ。凛が抱えたいというのであれば、私は止めはしないが」

 そう言って笑みを浮かべている凛に笑みを返す。しかし愚問だったな。セイバーが鎧を解いたとしても、ドレスでは奇妙さはさほど変わりはしない。しかし、それを言ってしまえば女性に運ばれる衛宮士郎が問題なのだろうが。そもそも、起こそうにも手段がない。あのボディーブロー二発でもこいつは起きなかったのだから。もちろん、凛とセイバーに内緒で平手打ちもやってはみたが。

「行きましょう。二人とも」

 微笑しながらセイバーが俺から衛宮士郎を受け取る。そしてふと、怪訝な表情をする。

「アーチャー、霊体化しないのですか?」

「セイバーが衛宮士郎を運ぶのだろう? 今更一人も二人も実体化していて差はあるまい。それにこの方が襲撃に備えやすいからな」

 さすがに、この時間に出歩く人間はいないと思いたいが。
 だが、セイバーの顔には不満げな表情が見えた。俺の負傷を気にしているようだが。俺の身は君と同じサーヴァントだというのに。
夜の闇も深い空を見上げて、そっとため息を吐いた。




 苛立つ




 衛宮士郎の呼吸は安らかであり、それを背負うセイバーも幾分落ち着いたものだった。
 もし、衛宮士郎が少しでも呻き声を上げていたなら、セイバーは全力で衛宮邸へと走ったかもしれない。

「それにしても、アーチャーが何で、二人も召喚されてるのかしら。綺礼の奴、何も言わなかったけど、知ってたはずよね。アーチャーやアサシンに出来るとは思えないから、学校の結界はキャスターの仕業かしら」

 最初の発言には答えようがない。俺はキレイとやらには会っていないし、記憶にも浮かび上がっては来ない。

「学校の結界はキャスターの仕業ではあるまい。柳洞寺から魔力を集めることが可能な彼女に、わざわざ学校などに結界を張る理由がない。それに彼女は魔女というには少々、非情さが足りないと思うがな」

 衛宮士郎を殺そうとしたことは、聖杯戦争のマスターとして考えれば仕方がないことだ。
 凛の表情が少し不機嫌なものに変わる。どうやら、俺の発言が気に入らなかったらしい。だが、ここではとやかくは言うつもりはない様だな。後で何を言われるか少々気になる所だが。

「じゃあ、アーチャー。あれは他のサーヴァント。ライダーがやったとでも言うの?」

「サーヴァントが8体存在するとしたら、恐らくはな」

「そんなことが、ありえるのでしょうか?」

 黙っていたセイバーも会話に加わってくる。第四回の聖杯戦争ではこれといったイレギュラーはなかったのかもしれない。

「さあ、私には判断の材料はないからな。だが、今回の聖杯戦争は常の周期とは違うのだろう?」

「――――そうね。前回の聖杯戦争からたった10年。イレギュラーがあったとしてもおかしくないかもしれない」

 俺などよりは凛の方が余程、聖杯戦争には詳しいだろう。最も、彼女が前回の聖杯戦争について情報を持っているかは疑問だが。
 凛のことだから、うっかり、調べてなかったなどと平気で言いかねん。前回の参加者とかいう神父に――――

「まあ、あんたみたいなアーチャー自体が、イレギュラーみたいなものか。なんだって剣士の格好してるんだか」

「未だに私がセイバーではないことを根に持っているのか。それは私の責任ではないと思うのだが・・・・・・」

「わかっているわよ。私がとちったのが原因なんだし。ちょっと思い出しちゃっただけだから」

「なるほど。確かにアーチャーのその姿では、セイバーのクラスと間違っても無理はない。凛も期待させられただけ、落胆のほども大きかったのでしょう」

「セイバー、君までそんなことを――――。いや、君の言うことも一理あるかもしれん。つまり」

 そう言って鎧に回していた魔力を解く。膨大な魔力によって編まれていた鎧が音も無く消え去り。黒いドレスとその上に着ていた聖骸布の姿が露になる。

「これならセイバーには見えんだろう」

「た、確かに剣士には見えませんが・・・・・・」

「アーチャー・・・・・・。そんな格好した弓兵だっていないわよ。それじゃあ、騎士じゃなくて姫君じゃないの」

 セイバーは遠慮がちだが、凛は呆れたという感情を隠しもしない。
 それに、基本的にはセイバーも変わるまい。俺とは比べ物にならないほど、美しい姫君に映ろう。

「なに。今問題としていたのは、セイバーに見えるか見えないかということだ。他は関係などないさ」

「まあ、それはそうだけど。アーチャー、あんたってゴスロリが趣味なわけ?」

 これには、俺の思考が多少止まってしまったとしても、許されるのではないだろうか。ゴスロリ、だと?
 恐る恐る、自分の格好を――――
 まあ、違うといえば厳密には違うはずだが。

「それは――――否定したい所だが、この有様ではそれは不可能、か」

「無理ね。そのドレスじゃ、どうしようもないわ」

 考えてみれば、今の俺の目線は、凛よりも低い。このことも凛の言動に拍車をかけているのかもしれない。
 さすがに否定しようもない事実、これ以上は墓穴を掘ることになりかねん。沈黙が吉、だ。
 気まずそうなセイバーと、どこか勝ち誇ったような凛の表情が印象的だった。俺は嘆息してばかりいる。




苛立つ




 気持ちのいいだろう風が吹いていた。ふと、この家に住んでいたとき、こんな風に屋根の上で風を感じたことがあっただろうか。
 ただし、霊体化している身では、その心地よさを味わいはできないが。普通は屋根の上になどめったに出ないだろう。せいぜい屋根の修理くらいだろうか。もっとも、そんなことがこの屋敷に必要になる事態など、さほどなかったような気もする。
 今は星も見えないが、いつかは見える夜もあるかもしれない。

 さすがの凛も睡眠は必要と感じたらしい。奴――――アーチャーのことは衛宮士郎が目を覚ましてから聞く事にしたようだ。俺には何も訊いては来なかった。

 イレギュラー。そう、異質なのは奴よりも俺の方だろう。少なくとも奴はエミヤシロウの筈だ。だが、この身はなんだ? エミヤシロウから大きく外れてしまったこの姿は。そう、この身はあまりにセイバーに似すぎている。先送りにしていたが――――いや、何を考えたとしても解決にはなるまい。単純に考えれば、セイバーが関係しているのだろうが。それすらも、確信にすらならん。

 それより・・・・・・なんだ、この不快感は。
 頭の中を螺旋を描くように渦巻くこの苛立ちは。決して奴の姿を見てからではない。この感覚はいったい何時から。

「まだ、見ていないのか?」

 理解も出来ずに膝をつきそうになった一言。何かが見えたわけではない、だがそれは、俺を確かに切裂いたのだと思う。
 奴が俺の見ていない何を見たのか。

 苛立つ

 奴が衛宮士郎を殺すということは、自分の抹消に他ならない。それが奴の望み。
 自分が消えてしまいたいと、奴は思ってしまったのだろうか。後悔、しているのだろうか。

「私怨―――――――ただの八つ当たりだ」

 脳裏に浮かぶ衛宮士郎の姿。あいつはとっさに俺を助けた。その後だ。奴がおかしくなったのは。
 誰かを助けるという行為。それが許せないのか。

 苛立つ

 自身の命の保障などない死地に、無条件で飛び込んできた。それは、自身を鏡に映す行為。
 それは当然のこと。俺たちは元は同じなのだから。

 苛立つ

「――――アーチャー」

 その、あいつの行為がなぜこんなにも俺を

「――――アーチャー」

 苛立たせるのか。

「――――アーチャー?」

「――――!、セイバーか」

 俺を見上げているセイバーを見つけると、実体化してその前に着地する。

「ふふ、そんなことでは見張りにはならないと思います」

 その言葉とは裏腹に咎めるような口調ではない。笑みが浮かんだ彼女から察するに冗談なのだろう。
 だが、俺が思考に没頭して、役目を疎かにしていたのは変えようがない。

「確かに。君には不甲斐ない姿ばかり見せる」

 困ったようにセイバーの眉が動くがその笑みは変わらなかった。

「いえ、そんなことはありません。貴女には感謝しています。私に代わってシロウを助けてくれました」

 そして、こんどは俺のほうが困ってしまう。

「む――――そんなことは同盟関係にある以上仕方なく」

「それでも、貴女はシロウを助けてくれた事実は変わりません。そして、貴女に感謝しない理由にはならない」

 その時、俺はどんな顔をしていたのだろうか。少なくとも目を丸くしていたに違いあるまい。
 どうやら、世界というのはよく出来ているらしい。かつて凛が、俺の再生能力を、運や、特に金に引き換えにしていると例えたが。
 俺はこの姿と引き換えに、多分に動揺しやすくなってしまったようだ。まったく、俺は恋する乙女ではないというのに。

「衛宮士郎は、もういいのか」

 ――――こんなことしか言えない。自分に少し滅入ってしまうな。

「ええ、貴女の言う通り、朝には目を覚ますでしょう」

「――――そうか」

「ふふ、アーチャーはシロウが嫌いなのですか?」

「む、嫌ってはいないと、思う。ただ、少し苦手には思っているかもしれないが」

 先ほどの苛立ちが僅かに浮かぶ。そう、苛立ってはいるが、嫌ってはいない。

「少し安心しました。貴女はシロウを避けている節があったので」

 ああ、そうか。俺はセイバーに心配されているのか。彼女は俺が、誰に対して苛立っているのか解っている。
 衛宮士郎に苛立つのは、あいつがあまりにも不甲斐ないからだろう?

「ふむ、そうだセイバー。衛宮士郎に稽古をつけてやってはどうかな」

「稽古、ですか? 士郎が望むのであれば、私は吝かではありませんが」

「なに、あいつのことだ、喜んでやるだろうよ。それに、あいつは戦いというものを知っておいたほうがいい。また懲りもせず飛び出すようではかなわんからな。君が教えてやってほしい」

「そうですね。士郎に相談してみましょう。ところで、アーチャー」

「なんだ?」

「シロウのことを、よく考えてくれているのですね」

「――――あいつは、危なっかしいからな」

 セイバーから視線を外す。凛のように意図してのものならいくらでも対処しようがあるのだが。
 あいつが、どんな道を行くのかはわからないが、
 苛立ちが消えたわけじゃない。だが、苛立つということは、俺はあいつを気にしているという事に他ならないのかもしれない。
 奴が、衛宮士郎を殺すというのなら、俺は全力で守ってみせる。奴が、後悔しているというのなら・・・・・・。


 目を閉じる。確かに、俺が走った道は理想には届かなかった。

 I am the bone of my sword.  (体は剣で出来ている)

 俺達は傷ついてもやっていける。剣で出来た体は少しくらいじゃ壊れはしない。

 Steel is my body,and fire is my blood.  (血潮は鉄で 心は硝子)
 脆い心は鉄で塞いだ。弱い俺は必死に隠して。弱い俺は気がつかない。

 I have created over a thousand blades.  (幾たびの戦場を越えて不敗)

 退けば、自分が折れてしまうから。

 Unknown to Death.  (ただの一度も敗走はなく)

 ただ、ひたすらに前を向いて走り続けた。

 Nor known to Life.  (ただの一度も理解されない)

 何かが欲しいわけじゃない。

 Have withstood pain to create many weapons.  (彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 ただ、理想を胸に剣を握る。

 Yet,those hands will never hold anything.  (故に、生涯に意味はなく。)

 歪んだ自分に救いはなく。

 So as I pray,unlimited blade works.  (その体はきっと剣で出来ていた。)

 それでも、それはきっと――――

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