そこは一つの世界だった。
剣の丘。そうとしか表現できないほど、目に見える全ての場所に剣が突き立っている。まるで、墓標のように・・・・・・。
誰もがこの世界を見ればこう思うのではないか。
なんと淋しい世界だろう、と。
まるで、生の鼓動など感じられないような世界にたった一人。
赤い衣服を纏った青年が立っていた。右手には、豪奢な装飾の長剣を握っている。
彼の体は、なぜまだ生きているのだろうと思えるほどに、ぼろぼろに傷ついていた。今にも崩れ落ちそうな体を、右手に握った剣を支えにどうにか立っている。
ああ、これはもうだめだな。
死ぬ。間違いないだろう。これだけの傷だ、ここまで戦えただけでも、よくもったほうだと思う。
死ぬのは怖くない――――と思う。
だけど、どうせ死ぬのなら。
あれ? 今何を考えてたっけ。声がきこえる?
「――――――――――――」
「契、約……?」
「――――――――――――」
それで願いがかなうなら。目を開けても見えるのは干からびた大地と、血溜まりだけ。
ひび割れる。今まで蓋をしていたものが漏れ出す。今までは蓋をしている事にすら気づいていなかった。
「我が死後を預けよう。だから」
目を閉じる。思い出せる、あの黄金を。
「シロウ―――――あなたを愛している」
そう言って消えた彼女と。間違いかもしれないけど。
ああ、わかっている、間違っていることは。
「アルトリアと会いたい」
だけど、この気持ちはうそじゃないと思うから。
この瞬間、青年、衛宮士郎の意識は闇に沈んだ。
右手に握ったままの剣を感じながら。
意識が浮上する。ここはどこだ? 何も見えない。何も聞こえない。感覚を失ってるのか。確かに、俺はあの時
っつ! 何かに引っ張られる感覚!!
そして視覚が回復した。同時に他のそれも自由になる。そして俺が見たものは。
「屋根!?」
落ちていた、それも頭から。いや、顔から、と言ったほうが正しいだろうか。ほとんど何もする事ができずとっさに体の向きを変えるだけで精一杯だった。
それはまさしく破壊音とでも言うのだろうか? 当事者というものは、案外そういうことはわからないものかもしれない。
俺の体は、すさまじい衝撃をうけながら、屋根を突き破った。
痛みはなかった。あの速度で落下したにしては少々おかしい気がする。
そして周りを見渡す。居間、だろうか。ここまで来るともう感嘆するしかないほど、めちゃくちゃになっている。
む?これは……そういうことか。
頭ににさまざまな情報が流れてくる。すこしずつではあるが。
つまり俺はあのときの契約で、英霊になったということだろうか?
確かに死後を預けるといったが。やはりあの時私は死んだのだろうな。
しかし、どうも体が重い気がするのはどうしてだろう。何か問題でもあるのか?
むう、状況がどうも見えてこんな。
そして、それを整理するべき精神も、安定しているとは言い難い。混沌としていて、自分でも押さえが効かない。
いまだ送られてくる情報は微々たる物。
わかるのは俺が死んで、英霊になってここに落ちてきたということか。
まて! まさかあのときの願いもかなうのだろうか!!
瓦礫、といっても差し支えないだろう。もとはなかなかの調度品だったようだが、その上に立つ。
ん? 視線が低い? おかしいぞ。この低さは。
そういえば自分の姿を見たか? 落ち着いて考えれば、そんな考えは浮かぶはずもない。それでも、確認せずにはいられないほどの、違和感が確かに存在していた。ゆっくりと、自分の手を顔の前まで持ち上げる。
篭手、だと?俺はそんなものを着けていた覚えはない。
これではまるで、まさか――――――――
聖骸布。確かに俺はこれを着ていた。問題ないなろう。だけどこんな形じゃなかったはずだ。
鎧。俺が使っていたのはせいぜい革鎧で、ここまで見事な重鎧ではなかった。
篭手、そして小さくなったとしか思えない手。
鏡はないがやはりこの姿は。
「セイバー」
ああ、声も記憶にあるもの同じだ。力が抜けて、へたりこんでしまう。
だけどこれはないだろう? 確かにアルトリアに会いたいと願いはしたが体だけ? 会っても。
これはまいった。アルトリアの体ということはやはりオレは女性になっているのか?
確かめる気にもならない。
「――――――」
目の前の扉から声が聞こえる。開けようとしているようで、取っ手がガチャガチャと動くが開かない。
当然だ。扉が大きくゆがんでいるのだから。
声からして女性、それもまだかなり若いようだ。
そういえば、まだこの家の持ち主にはあってなかったな。
その女性は何かを叫んだ後、扉を蹴破った。
そして出てきた女性は。
「遠、坂・・・・・・」
俺のよく知る人物の、懐かしい姿だった。
「・・・・・・」
不意打ちだった。遠坂に聞かれたかと思ったが、それは無いようだ。
ん? なんだ、呆然としているが、俺を見てそうなってるわけじゃないようだ。
その視線の先には。時計? なんでさ。
遠坂の視線が俺に移る。わずかに眼を見開いたような気がしたが。
「貴女、大丈夫?」
は? 聞き間違いだろうか。遠坂から、俺を気遣う言葉だと!?
呆然としてしまう。そんな、アリエナイ。
「顔真っ青だし、腰が抜けましたって格好だし」
「へ?」
そうだ、なんでか体がセイバーのものになっててそれで――――
くっ、落ち着け! なんかさっきから信じられんことばかりだが、全部真実だ。
ならば、いまできることをしろ!
あわてて立ち上がる。ちっ、予想以上に動揺しているらしい。
「だ、大丈夫だ。どこにも、問題なんかないぞ」
「そうかしら?思いっきり問題ありますって感じだけど」
「そ、そうかな」
だめだ。ごまかすのは失敗だ。くそ、どうすれば。
遠坂の顔は心配しているというよりは、呆れてるって感じに変わったような気がする。
そしてその顔が俺のよく知る―――――
「はいはい、大丈夫だって、別にとって食いなんかしないから。少し落ち着きなさい」
「お、おう!」
そのまま深呼吸をさせられる。ああ、なんだか、落ち着いてきた気がする。
遠坂はニヤニヤ笑っているけど。これ、弱みになるのかなぁ。
だが、遠坂の表情が真剣なものに変わる。
む、これは重要な話かもしれん。俺も、思考を切り替えねば。
「それで、大事なことを聞きたいんだけど……。貴女は私のサーヴァントかしら? 」
だが、遠坂の言葉は、俺の予想を上回る。
「サーヴァント、だと?」
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